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■被爆者平均80歳目前 核なき世界実現託す

 厚生労働省の集計によると、被爆者健康手帳を持つ全国の被爆者は今年3月末で19万2719人(前年同期比9060人減)になり、初めて20万人を割り込んだ。平均年齢は79・44歳。本年度末には80歳を超える見通しで、被爆者ゼロの時代が刻々と迫っている。

 原爆で妹と大半の学友を失い、「広島県動員学徒等犠牲者の会」の設立に尽力した寺前妙子さん(84)=広島市安佐南区=は、浜松市を皮切りに全国で精力的な講演活動を続けてきた。しかし、子宮体がん、乳がん、甲状腺がんと3度のがんとの闘いを経た今、広島市を離れる機会はほとんどなくなった。

 被爆者の多くは敗戦直後の連合国軍総司令部が発令した言論統制による「空白の10年」を忍んできた。声が国に届くようになったのは、1954年の米水爆実験で焼津港所属の第五福竜丸が被ばくしたビキニ事件以降だ。

 原爆投下と敗戦に伴う空白の10年、その後の原水爆禁止運動の盛り上がり。時代の波に翻弄(ほんろう)されながら、広島、長崎の惨禍を証言してきた被爆者は老いを深め、活動範囲を狭めざるを得なくなっている。

 戦争経験者がいなくなる将来を見据え、広島市は26人の被爆体験証言者の体験を若い世代が語り継ぐ伝承者養成事業に力を入れている。今年8月5日には原爆投下当時に母親のおなかにいた胎内被爆者が全国組織をつくった。静岡県内の教育現場では平和教育が静かに盛り上がり、被爆地に児童・生徒を派遣する学校が増加傾向だ。

 8歳で被爆した県原水爆被害者の会の川本司郎会長(77)=静岡市清水区=は「あと10年もすればわれわれはいなくなる。若者に継いでもらうしかない」と、じわりと広がる記憶継承の動きに期待する。

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