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「地権者同意」悩む自治体 東日本大震災被災地のかさ上げ・高台移転 訴訟リスク 活用慎重

 東日本大震災の被災地は、津波を教訓にしたまちづくりが姿を見せ始めていた。日本記者クラブの取材団に参加。岩手、宮城両県内の3市2町を訪ねた。市街地のかさ上げ、高台への集団移転の復旧事業が進む。地権者の同意を得ながら早期に事業を完成させる難しさをあらためて感じた。

 ベルトコンベヤーが山から平地部に枝分かれしながら延びる。総延長は約3キロ。ベルトコンベヤーで土が運び込まれていた。岩手県陸前高田市での区画整理事業。市街地の2カ所計約300ヘクタールを9~14メートルかさ上げする。

 2018年度までの7年計画。市は地権者約2200人を対象にかさ上げ工事の説明会を県内外で20回余り開き、約9割から起工できる同意を得て、約1割の地権者の理解を求めている。「とても順調」と戸羽太市長。遅くとも来夏までの起工を目標にしている。工期が延びれば、それだけ地元に帰る被災者が少なくなるとの危機感が背景にあるからだ。

 市有地では既にかさ上げに着手。全地権者の同意が得られなければ、今年1月に国土交通省が通知した特例を活用する意向だが、戸惑いもある。

 特例は地権者の同意を事前に得なくても、かさ上げ工事ができるとする。戸羽市長は「土地区画整理法の解釈を変えただけ。地権者から財産権の侵害として訴えられる恐れもある」と活用には慎重な姿勢。「自治体の権限を法律で明文化してほしい」と主張する。

 同市は2カ所の土地区画整理事業で計2120戸の居住を想定。さらに5カ所の高台への集団移転事業も計画。18年度までの完成を予定し、計254戸の利用を見込む。

 取材団は同市のほか、岩手県遠野市と宮古市、大槌町、宮城県南三陸町を回った。内陸部の遠野市を除く2市2町が津波で被災した市街地でのかさ上げを伴う区画整理、高台への集団移転が進んでいた。  南三陸町は中心部約60ヘクタールで区画整理事業を計画。職員43人が犠牲になった町防災庁舎があり、かさ上げ後も津波被害の可能性が高いとして「非居住区域」に指定した。利用は工業や商業に限られる。全地権者の同意を原則とし、やむを得ない場合には特例を活用も検討する。

 佐藤仁町長も訴訟リスクの可能性に触れながらも、「広島市の土砂災害など災害は各地で起きている。特例を全国の被災地で活用できるような法整備を急いでほしい」と訴えた。

 被災地から上がる法律への明文化の要望に、国交省市街地整備課は消極的だ。「あくまで東日本大震災で広範囲の復興が急務となった自治体への例外的な措置」と位置付けるからだ。「地権者の財産権をかなり制限するが、特例で訴訟リスクは低減される」としている。

 復旧事業が本格化するにつれ、所有権をめぐる訴訟リスクが市町と国とのずれを招いている。どう折り合えるのか。対策を見いだす協議が急がれる。(坂田茂)

土地区画整理事業での仮換地の特例
 地権者に区画整理による新たな所有地を2段階で指定する。第1段階は、地権者の現有地の区域を仮の所有地と見なす指定により、地権者の同意を得なくてもかさ上げ工事ができるとした。第2段階は、かさ上げした後に道路など公共用地を除いた区域で新たな所有地を指定することになる。従来の土地区画整理事業は、地権者に整備後の新しい所有地を指定し事実上の同意を得なければ着工できない。このため長期間に及ぶケースが目立っている。

(2014年9月28日朝刊掲載)

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