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「原爆神話」からの脱却を 日米研究者 核抑止論克服へ出版

■特別編集委員 田城明

 「原爆投下は多くの米軍兵士と日本人の命を救い、戦争終結を早めた」。こんな米国政府の公式見解を真っ向から否定する日米2人の研究者の論考をまとめた著書「広島・長崎への原爆投下再考」が発刊された。米政府の見解を「原爆神話」にすぎないとし、その神話が今に続いていることが、核兵器による威嚇や使用につながる「核抑止論」の容認につながっていると力説する。

 著者は首都ワシントンにあるアメリカン大歴史学部教授で、同大核問題研究所長のピーター・カズニックさん(62)と鹿児島大法文学部教授の木村朗さん(56)。

 カズニックさんは、被爆50年の1995年から毎夏、アメリカン大の学生たちを引率して広島・長崎への平和学習を継続。日本から参加の立命館大の学生たちとの間で、原爆被害や原爆投下をめぐる日米認識ギャップについてワークショップを開くなど、地道な取り組みを続けている。講師として木村さんが平和学習に加わるようになって2人は知り合い、今回の出版につながった。

 全体は第I部「日本側の原爆投下認識」、第II部「米国側の原爆投下認識」、第III部「原爆投下認識に関する討議」から成っている。

 2人はそれぞれの立場から、原爆投下の不必要性と、どのように神話がつくられていったかを史実に基づいて検証。カズニックさんは、投下正当化の一例として、トルーマン大統領が当初「数千人」の米兵の命を救ったと発言しながら、大規模な原爆被害に対する批判が高まるにつれ、「トルーマンの推計は50万、さらにそれ以上に膨らんでいった」と指摘する。

 木村さんは、特に長崎への原爆投下に着目。ウラン型の広島原爆とプルトニウム型の長崎原爆は、最初から「ワンセット」として考えられており、両方の物理的威力を知るだけでなく、「人体実験」という側面が強かったのではとみる。

 2人は「原爆神話」の虚構性を見抜く重要性と同時に、「戦争の早期終結」「人命救助」といった従来の思考の枠組みを超える必要があると説く。原爆(核兵器)はどのような理由があれ、決して使ってはならない「非人道兵器」であり、「人類への犯罪行為」である。こうした認識に立って初めて、「核の傘」の下にある日本を含め、核抑止論を克服できるというのだ。

 本書には、広島への原爆投下機「エノラ・ゲイ」のポール・ティベッツ機長と乗組員たちの生涯を丹念に追ったカズニックさんのリポートもあり、実に興味深い。

 A5判216ページ、2940円。法律文化社刊。翻訳は乗松聡子さん。

(2010年12月15日朝刊掲載)

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