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秋葉市長が退任表明 3期目の今期限り 「広島五輪」不透明に

■記者 滝川裕樹、藤村潤平

 広島市の秋葉忠利市長(68)は4日、市役所での仕事始め式で「(任期満了の)4月7日で市長としてのピリオドを打つ」と述べ、3期目の今期限りで退任する意向を表明した。2020年夏季五輪の招致に強い意欲をみせ、市議会や経済界には4選を目指すとの見方が広がっていたが、突然の退任表明となった。

 職員約250人を前に、秋葉市長は「3期の間に市民から託されたたすきを、新たなエネルギーと創造力の持ち主に引き継いでもらいたい」と話し、4月10日投開票の統一地方選前半戦で実施される市長選に立候補しない考えを伝えた。一方で記者会見は行わず、この日に退任表明した理由や決断の経緯などの説明はしなかった。

 秋葉市長は東京都出身。米タフツ大准教授や広島修道大教授を経て1990年に衆院議員に転身。3期目に社民党を離党し、1999年の市長選に立候補、初当選した。2003、07年の市長選も自民党推薦の候補らを破った。

 就任後は、自らが会長を務める平和市長会議で核兵器廃絶運動を精力的に展開。国内外の加盟都市を4467(1月1日現在)に増やした。2003年10月には財政非常事態を宣言。人件費削減や公共事業抑制などで一般会計市債実質残高を2000年度末の8256億円から、2009年度末で7245億円に減らした。

 2009年3月には旧広島市民球場(中区)に替わる広島東洋カープの新たな本拠地として、経済界や市民と連携しマツダスタジアム(南区)を完成させた。

 同年10月には、20年夏季五輪の招致検討を表明。当初は昨年末までとした招致の決断時期を「市民の幅広い理解を得たい」と延期していた。4月の任期満了を区切りに退くことで五輪招致をめぐる情勢は不透明となった。

 秋葉市長の退任で広島市長選の情勢も混迷の様相を強めそう。これまでに、元市議の大原邦夫氏(61)と、横浜市の執筆家荒木実氏(67)が立候補を表明。自民党広島県連などが擁立作業を続けている。


幕引き 市民に説明なく


■記者 藤村潤平

 今期限りでの退任を4日の仕事始め式で突然表明した広島市の秋葉忠利市長(68)。2020年夏季五輪の招致検討や広島県営広島西飛行場(西区)の市営化など重要課題が山積する中、「市政運営を投げ出した」との印象も否めない。この日は記者会見も行わず、自らの進退をめぐる市民への説明は置き去りにしたままだ。

 今後、市政運営では困難な局面が多く待ち構えていた。五輪招致では、昨年末までを期限とした決断時期を「反対」の世論を受け今年に延期した。西飛行場の市営化でも最大の目的である東京線復活の見通しがない上に、年間2億~3億円台の管理運営費や約40億円の滑走路改修費が必要となる。

 秋葉市長は本年度、米国ニューヨークやアルゼンチンなど6カ国に計44日間出張した。自身が会長を務める平和市長会議の加盟都市拡大など核兵器廃絶に向けた取り組みのために激務をこなす半面、体調を崩す場面が度々みられた。

 4期目になると70歳代に突入し、心身への負荷は増す。退任の連絡を受けた複数の関係者によると、秋葉市長は「激務で疲れた」と説明。平和市長会議の加盟都市が順調に増えるなどの成果や多選の弊害も挙げ「ここが引き時」と述べたという。

 関係者の一人に「後継指名のようなことは一切しない」とも語った。今後の候補者選定には関わらない姿勢を示したとみられる。「唐突」ともいえる表明の背景は関係者の証言で見えてくる。

 だが、秋葉市長は4日、「しかるべき時に自分の気持ちを文書にして出す」とのコメントを発表しただけ。退任を決断した理由や広島五輪構想の今後をどう考えているのかなどを公の場で説明することはしなかった。

 秋葉市長は、退任表明した仕事始め式のあいさつの中で「たすきを引き継いでもらいたい」と新たなリーダーの登場に期待を込めた。そうだとしたら、117万都市の市政運営という「たすき」の現状を市長自身がどう認識し、退任という決断に至ったのか。可能な限り市民への説明を尽くすのが、現職の責務ではないか。


突然の「降板」市民複雑


■記者 松本大典

 広島市の秋葉忠利市長が今期限りで退任する意向を表明した4日、市民からは核兵器廃絶や被爆者援護の前進に努めた3期12年を評価する声が相次いだ。半面、招致を検討している2020年夏季五輪を中心に「途中で投げ出すことにならないか」と懸念する声が上がった。

 中区の藤本幸枝さん(83)は「もったいない。気持ちが強く、先頭に立って引っ張る印象があった」。西区の会社員河野優子さん(25)は「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を昨年受賞したことに触れ「国際的評価も高かったのに」と残念がる。

 ただ、五輪招致を検討しながらこの時期に退くことについては、計画の賛否にかかわらず首をかしげる人が少なくない。

 賛成する西区の会社員戸田和雄さん(30)は「時間をかけて市民に構想を伝えていってほしかった。今後はどうなるのでしょうか」。計画には無理があると考える中区のアルバイト従業員西森武志さん(48)は「寄付金への依存度が高く、現実味はない。しかし、課題を投げ出してしまうとは」と批判した。

 被爆者団体は退任を惜しむ。秋葉市長の衆院議員時代から親しい広島県被団協の坪井直理事長(85)は「英語で核兵器廃絶を世界に発信し、平和市長会議の加盟都市を4400以上に拡大した功績は大きい」。もう一つの県被団協の金子一士理事長(85)も「世界に広島の声を届けるのにこれほど努力した市長はいないのでは」と語った。

 広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長(63)は、秋葉市長が退任の意向を表明した市の仕事始め式に出席。「(引退の背景は)何も知らない。世界の人はがっかりすると思う」と顔をこわばらせた。

 また市民からは次の市長への注文も出た。西区の川本知さん(77)は、昨年末に市営化方針が示されたばかりの県営広島西飛行場(西区)の行方に気をもみ「きちんと引き継いでほしい」と要望。西区の村田比沙子さん(72)は「五輪計画のように理想を追いかけて企業の寄付を期待するような姿勢ではなく、もっと市民生活に直結した身近な経済対策に力を注いでほしい」と強調した。

(2011年1月5日朝刊掲載)

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