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社説・コラム

社説 サンゴ密漁対策 長期的な視点も必要だ

 台風が過ぎ去れば、またぞろ言語道断の行為を繰り返すのだろうか。小笠原諸島や伊豆諸島の周辺で中国漁船のサンゴ密漁が深刻な問題となっている。

 その数は時に200隻を超えたと伝えられる。日本の領海や排他的経済水域(EEZ)に侵入し、中国で高値で取引されるアカサンゴなど「宝石サンゴ」を根こそぎ採取している。

 厳しく規制され、採取に特別な許可が求められる貴重な生態系である。魚の産卵場所の役目も果たし、こうした違法行為による漁業への影響は計り知れない。さらには船員らが不法入国する恐れがあるとして、島で暮らす人たちの不安も強まる。

 海上保安庁は現行犯の摘発を重ねるが手が回らず対応に苦慮している。巡視船を増強したとしても今のような状況が続くとすれば限界があろう。しかし手をこまねくことは許されまい。政府・与党内で対策強化の動きが加速したのはうなずける。

 こうまで大規模な密漁がなぜ横行するのか。背景についても当然、分析する必要がある。

 一つは希少生物保護の観点から中国政府が国内法でアカサンゴなどの採取を厳罰で禁じた余波といえよう。富裕層増加で宝飾品としてのニーズが高まり、乱獲されてきた流れに歯止めをかけたのはいいが、一獲千金を求める密漁が罰則の軽い海外へと広がってしまったようだ。

 少し前までは、その密漁の現場も沖縄近辺が中心だったという。尖閣問題もあって日本の巡視船が目を光らせるため、小笠原方面に移動してきた。そんな見方もできる。

 いわば中国側の政策とも深く関わりのある問題であり、日本政府が外交ルートで対処を厳しく求めるのも当然だ。自国内の環境さえ守れば、後はほおかむりでは困る。中国側は何より実効性を伴う取り締まりを早急に進めるべきである。

 もちろん日本としても、できる限りの手を打っておきたい。自民、公明両党は違法操業を取り締まる外国人漁業規制法などを議員立法で改正する検討を始めたという。罰金の大幅引き上げが軸となりそうだ。

 現状では、捕まっても数百万円程度払えば済むことが多く、しかも押収物は返還される。サンゴ売却で得られる巨額の違法利益と比べ、罰金が少ないために抑止する効果を発揮していないのは否めない。仮に日本人が密漁した場合とのバランスも勘案しながら検討を急ぎたい。

 ただ目の前の中国船を追い払うことに腐心するだけでいいのだろうか。長期的な視点で海の生態系をどう守るか、地に足の着いた議論も求められる。

 実のところ小笠原周辺のサンゴ密漁にしても、きのうきょう始まったことではない。30年ほど前にも台湾の船団が同様に根こそぎ乱獲し、地元の漁業が打撃を受けたと聞く。その点から考えても、中国脅威論と安易に結び付けるような自衛隊派遣の発想などは乱暴に過ぎよう。

 ここは日中両国の課題だけにとどめず、サンゴを含めた海の生物資源を維持していく国際的な議論につなげたらどうか。

 北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で投げかけるのも一手だろう。そのためにも、首脳外交の復活をはじめ日中政府間の連携強化が必要なのは言うまでもない。

(2014年11月7日朝刊掲載)

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