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2014衆院選 見えぬ新設 活路模索 原発計画中断続く上関町 

 安倍政権はエネルギー政策で原発回帰の姿勢を鮮明にし、再稼働を推し進める。一方で新設の中国電力上関原発(山口県上関町)計画は福島第1原発事故後に準備工事が中断して3年8カ月が経過。宙に浮いた状態が長期化している。国策に翻弄(ほんろう)され続けてきた上関町は今、原発財源に頼らない生き残りのすべを模索し始めた。(井上龍太郎)

 衆院が解散した21日、同町室津に道の駅「上関海峡」がプレオープンした。目の前の海で水揚げされた鮮魚や農水産物が並び、大勢の買い物客でにぎわった。近くの女性(80)は「町内では食材がそろわなくなっていた。本当に助かる」とイカやイモを買い求めた。原発推進の立場。ただ「できるかどうか、もう分からんよ」とつぶやいた。

 道の駅は農水産業を生かした観光振興や買い物弱者支援の拠点として、町が整備した。柏原重海町長は「なかなか先が見えない原発計画と、まちづくりは別だ。『ないもの』をいつまでもねだっていられない」と強調する。「ないもの」とは原発計画に伴う国からの交付金。ここの整備にも積み立てた交付金を充てた。

 前回2012年の衆院選で自民党は、「原発ゼロ」を掲げた民主党から政権を奪還。政府はことし4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、原発の再稼働を進める方針を明記した。

 いま国内では全48基が停止しているが、今月7日には九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に鹿児島県の伊藤祐一郎知事が同意を表明。年明けにも再稼働する見通しだ。

 だが、エネルギー基本計画は新増設の是非に触れていない。政府は「新増設の議論をできる状況ではない」(宮沢洋一経済産業相)との認識だ。これまで町に入った原発関連交付金は約70億円。それが準備工事の中断に伴い、昨年度からは年1億円未満に激減した。

 同町のある山口2区には3人が立候補を予定。上関原発について、自民党前職の岸信夫氏(55)は「原発が再稼働していく中で議論を深める必要がある」、民主党元職の平岡秀夫氏(60)は「新増設は認められない」、共産党新人の赤松義生氏(60)は「上関原発の計画中止」をそれぞれ訴える。

 町の人口は3197人。原発計画が浮上した1982年と比べ半減し、高齢化率は53%に達する。上関原発計画の継続か撤回か―。針路を見通せない現状が、まちづくりの歩調を鈍らせてきた。厳しい現実が老いを深める町に横たわる。

 町は、大型の風力発電機2基を同町長島の上盛山に建設する検討も新たに始めた。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を活用した売電収入とともに、観光面での効果も期待する。町内の主婦(66)は福島の事故後、原発推進から中立に転じた。「今はどちらでもない。いがみ合いをなくすために一刻も早く結論がほしい」。そう望む。

エネルギー基本計画
 国のエネルギー政策の中期的な指針。3年をめどに見直す。東日本大震災と福島第1原発事故後で初めてとなる現在の計画は安倍内閣が4月11日に閣議決定。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働を進める方針を明記した。将来にわたり原発を活用する姿勢だ。原発依存度を可能な限り低減させるとしたものの、電力の安定供給やコスト面から「確保していく規模を見極める」と新増設に含みを持たせた。

(2014年11月24日朝刊掲載)

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