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社説・コラム

天風録 「獅子の時代」

 あるいは虫が知らせたのか。つい最近、主演作をDVDで見直したばかりだ。34年前の大河ドラマ「獅子の時代」。昭和の名優、菅原文太さんの役どころは幕末・明治を生き抜く会津人である▲公共放送らしからぬ路線に賛否があったのを思い出す。「トラック野郎」の起用に加え、山田太一氏が書き下ろした脚本は架空の庶民を主人公に。勝ち組薩長に敗れ、虐げられる側の苦しみを描き抜いた異色作だった▲その結末も反骨を貫いた文太さんの生きざまと重なる。藩閥政治にあらがう自由民権運動に加わり、農民蜂起で「自由自治元年」の旗を手に政府軍に突っ込む―。鬼気迫る演技は今見てもかっこいい、とため息が出る▲また銀幕の大スターが逝く。そんな惜しみ方もできるが晩年の姿こそ真骨頂に思える。3・11を機に、映画を撮っている場合かと引退し有機農業の道へ。脱原発を掲げ、集団的自衛権の行使容認の動きにもあらがった▲古里の宮城をはじめ被災地への思い入れも強かったと聞く。今なお苦しむ人たちをよそに選挙にきょう突入する面々を、どう見ていよう。小さな種をまいて去りました、とは妻文子さんの言葉。それを育てる「元年」にしたい。

(2014年12月2日朝刊掲載)

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