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社説・コラム

[私の「争点」2014衆院選] 原発で経済性優先悲しい/エネ経費の上昇が中小圧迫

 安倍政権は、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、原子力規制委員会が基準に適合すると認めた原発から順次、再稼働させる方針だ。一方で「脱原発」を望む声は根強い。賛否が割れる再稼働に関し、衆院選でどんな議論を望むのか、2人に聞いた。(聞き手は長久豪佑)

東日本大震災の避難者の会副代表 佐々木紀子さん(43)=広島市

 街中でイルミネーションを見掛けると複雑な気持ちになる。節電はどうなったのと。原発の再稼働方針が決められたこともそう。本当に福島の現状が伝わっているのかと感じてしまう。

 福島第1原発事故直後、福島市から息子2人とともに夫の実家がある広島市に避難。広島県内に避難した被災者でつくる「ひろしま避難者の会アスチカ」で、2012年10月の設立時から副代表を務める。

 会として再稼働の賛否を主張していないし、会員にさまざまな意見がある。私としては、もう稼働させてほしくない。福島の現実を飛び越えて合理性や経済性が優先されるのは悲しい。原発を止めた際の負担は背負わねばならない。理想論かもしれないが、未来の人はきっと評価してくれる。

 事故時の避難計画策定は原発の半径30キロ圏内の自治体に義務付けられるが、実効性を疑問視する声がある。

 計画通り避難できないし、想定以上に混乱すると思う。事故が起これば30キロ圏外の人も避難する可能性もあるし、何より避難生活は長期化する。人とのつながりに及ぶこともつらい。親戚と疎遠になり、息子は友達と離れ離れになった。

 再稼働の問題は経済対策に埋もれがちだけど、候補者それぞれは推進、反対の意見を持っている。それを踏まえ、みなさんで真剣に考えてほしい。私たちが意識しなければ、選挙が終わった時、いつの間にか方向性が決まってしまうことになってしまう。

島根経済同友会代表幹事 宮脇和秀さん(65)=松江市

 原発再稼働の是非は国民のライフラインの問題。感情論ではなく冷静な議論を望みたい。原発はやめろ、電気料金も下げろというのはおかしい。現実に即した議論の上で国民の結論が「ノー」であるなら、政府はそれに従えばいい。

 IT機器販売などのミック(松江市)社長。島根県内の経営者たちでつくる島根経済同友会の代表幹事を務める。

 原発は再稼働させるべきだ。産業国家日本を支える地方の中小企業がエネルギーコストに圧迫され続ければ、経営は成り立たない。

 依存度を下げることは必要だがいきなりゼロは無理。廃炉と自然エネルギーの活用には膨大な費用と時間が必要だ。原発を将来的になくすため動かしながら利益を生み出していくしかない。次の世代のため、これ以上国の借金を増やしてはいけない。

 中国電力島根原発(松江市鹿島町)2号機は、再稼働に向けた新規制基準への適合性審査の結果が来年にも示される。

 2号機と、ほぼ完成した3号機は速やかに動かすべきだ。稼働40年を超えた1号機は世論が許さないかもしれない。

 政治家は、票を失うからと原発に関する意見の細部をにごす印象がある。衆院選はエネルギー政策を見直す良い機会。例えば立地自治体への交付金を見直し、自然エネルギーの研究費に回すといった主張があっていい。有権者は、あえて細かい議論を聞いて判断するという感覚も必要だろう。

(2014年12月6日朝刊掲載)

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