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社説・コラム

社説 ’14衆院選 原発政策 脱依存の道筋見えない

 東日本大震災は、原発に頼らない社会へと向かう出発点になるはずだった。ところが、時計の針を戻したかのような動きが次々と進んでいる。

 政府はことし4月、原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける新エネルギー基本計画をまとめた。来年にはまず九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)が再稼働しそうだ。

 このまま福島の事故を忘れたかのように原発への回帰が進むのかどうか。日本は重要な岐路に差し掛かったといえよう。

政権交代で転換

 先行きが見えない背景に、原発・エネルギー計画のあいまいさがある。

 震災を受けて当時の民主党政権は「2030年代に原発ゼロ」をエネルギー政策の目標に掲げた。しかし、政権を奪い返した自民党は「ゼロベースで見直す」。今回の選挙公約は「責任あるエネルギー戦略」をうたい、原子力規制委員会が認めた原発を再稼働させる方針だ。

 ところが規制委は、100パーセントの安全を保証してくれるわけではない。現に田中俊一委員長は、新たな安全基準との適合性を審査しているとし「安全とはいわない。再稼働にはコミットしない」と述べてきた。

 一方、川内原発の立地自治体は「国が責任を取る」ことを根拠に、再稼働に合意している。

 すなわち、国と規制委と地元の3者が最終的な責任を押し付け合っている構図といえよう。

 さらに万一の事故が起きた場合、障害者や高齢者らが迅速、確実に避難できるかどうか。国が自治体に命じて作成させた避難計画の不備が指摘されている。加えて、その計画を規制委が審査する仕組みもない。

 これでは国民が不安を拭うことはできない。広域に被害をもたらした福島の事故を教訓にしているとは到底いえない。

再生エネ普及を

 中期的な原発の在り方も不透明になっている。安倍政権は「原発依存度を可能な限り低減する」としつつ、新エネルギー基本計画に具体的な比率は盛り込んでいない。

 原発への依存度を本気で下げるのであれば、再生可能エネルギーなども合わせて電源構成の目標値やスケジュールを定め、総合的な施策を打つのが本来の姿であろう。そこが十分でないまま再稼働の既成事実を積み重ねようとするのであれば、国民の理解は得られまい。

 脱原発に後ろ向きにみえる国の姿勢は、再生エネの接続保留問題にも表れている。九電などは、太陽光発電などの買い取りを一時中断した。事業者からの申請が急増し、送電可能な容量をオーバーする、というのが理由である。

 しかし送電網の弱さは早くから専門家が指摘していた。再生エネの固定価格買い取り制度では、国の当初の設計がずさんだったと批判されても仕方あるまい。再生エネ普及に責任を持ってもらいたい。

廃炉に巨費必要

 国が再稼働を進めたい背景には経済的な理由があろう。原発の穴を埋める火力発電所の燃料コストが膨らみ、沖縄を除く電力9社の震災後の累積赤字は3兆円を超すという。電気料金の値上げが続けば、家計や企業活動に響くのも確かだろう。

 とはいえ、ひとたび事故があれば原発は低コストどころではない。地球温暖化も考えれば、可能な限り再生エネを推進していくほかあるまい。

 既に廃炉の時期が迫った原発も少なくない。巨額の費用が見込まれるうえ、技術的あるいは政治的に解決すべき課題も山積する。最も厄介なのは、放射性廃棄物の処理問題であろう。

 しかも、わが国の核燃料サイクル政策の行き詰まりは明らかだ。「核のごみ」と呼ばれる使用済み核燃料が増え続け、これまでの再処理により核兵器の材料にもなるプルトニウムもためこんできた。

 被爆国が核拡散の拠点になりかねないことを意味する。由々しき事態というほかない。こうした問題が、選挙戦でほとんど語られていないのはいかがなものだろう。

(2014年12月7日朝刊掲載)

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