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社説・コラム

天風録 「過ちの記憶」

 広島と長崎の両市長が昨年春、思い直すよう求める要請文を送った。小欄も取り上げた。だが、被爆地の核兵器廃絶の訴えなど取るに足らぬと考えているに違いない▲米国の原爆開発の拠点だったロスアラモス、オークリッジ、ハンフォードの原子炉や建物を国立歴史公園に指定する―。議会下院に続いて今週にも上院が法案を可決し、大統領の署名を経て、とうとう本決まりになる▲原爆を設計し、濃縮ウランやプルトニウムを造った。その施設を「国家的に重要な歴史資源」に位置付けようという話だ。いくら政府当局者が「原爆投下を美化する狙いはない」と抗弁しようが、うなずく気にはなれない▲今週にはウィーンで核兵器の非人道性に関する国際会議が開かれ、米政府も初参加する。人の道にもとる核兵器をなくそうという話し合いである。核大国は自らをどう正当化するのだろう。そして同席する被爆国政府は、いったい何を語るのだろう▲同じ話題を何度も取り上げないのが小欄の流儀だが、あえて昨年と同じことを書かずにはいられない。いっそ世界遺産に名乗りを上げてはいかが。原爆ドームやビキニ環礁とともに、人類の過ちを記憶に刻む場所として。

(2014年12月7日朝刊掲載)

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