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社説・コラム

天風録 「天気予報なき時代」

 真っ白な村からヘリで住民が救出されていた。雪で広島県安芸太田町にある集落が孤立した。四国で死者を出すほどの寒波襲来だった。きのう二十四節気の大雪(たいせつ)。暦の通りになった。暖冬とはいかぬようだ。気象情報を注視したい▲明けてきょうは月曜。73年前もそうだった。冬の朝、ラジオの臨時ニュースに人々は寒々しく感じたか身を熱くしたか。日米開戦を告げる大本営発表である。気象情報は機密情報とされ、天気予報もなくなってしまう▲勝戦(かちいくさ)叫ぶラヂオの四方(よも)に冴(さ)ゆ(新井石毛)。いてつく日にも多くの国民が高揚したようだ。街頭や電車の中で熱弁を振るう者まであったという。歌人の斎藤茂吉も興奮ぶりを日記にのぞかせている。「ハワイ攻撃! 戦ハ日曜ナリ」▲日付変更線の向こうはまだサンデーだった。太平洋の真ん中に浮かぶ島のこと、師走でも穏やかな朝だったろう。ところが真珠湾の艦船を予期せぬ敵襲が見舞う。次々に炎上させられ、真っ黒な煙が空を覆っていった▲今また妙な暗雲がこの国にかかっている。特定秘密保護法が成立して1年が過ぎた。天気予報の消える日が再びやって来やしないか。まさかと思うが、背筋がぞくぞくする。

(2014年12月8日朝刊掲載)

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