×

社説・コラム

社説 秘密保護法あす施行 安易な指定許されない

 多くの懸案を残したまま特定秘密保護法があす施行される。

 行政による情報の独占を許し国民の知る権利が制限される恐れがある。民主主義の根幹に関わる問題である。

 秘密法とは、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の四つの分野で、行政機関のトップが特定秘密を指定できるとの内容である。漏えいした場合、最高で懲役10年が科される。

 最大の問題は、時の政権の意向で、幅広い情報が一方的に秘密に指定されることだ。情報を漏らした側だけでなく、情報を得た市民や報道機関も、厳罰に処される恐れがある。

 保護すべき国家機密があることは一定に理解できよう。しかし幅広い分野で、行政が情報を外部からシャットアウトすれば国民主権が揺らぎかねない。自由に情報にアクセスできる状況こそ、基本とすべきだ。

 例えば、原発や自衛隊などに関する情報が「テロ対策」などの名目で、いま以上に覆い隠されるかもしれない。市民活動も「スパイ防止」を名目に監視が強まる恐れがある。こうした実例が広がれば、自由に物も言えなくなり、息苦しい社会になってしまわないか。

 政府側は、知る権利や報道の自由は尊重する、としている。一方で「著しく不当な方法」による取材などは処罰対象であり、何が「不当」かの定義はあいまいなままである。

 報道機関やフリーランスの記者は権力の監視のため、情報源に食い込み、隠された真実に迫ろうとする。合法的手段でさえ、恣意(しい)的に不当だとみなされる懸念は拭えない。

 情報公開の観点からも問題がある。秘密に指定されれば原則的に30年間まで非公開となる。さらに内閣の承認で60年まで延長できる。

 ところが一部は、行政が恣意的に文書を廃棄できる余地が残されている。行政に都合の悪い事実や秘密文書が、闇から闇へと葬り去られかねない。

 これらの問題点に批判が寄せられたためであろう。「独立した監視機関」を置き、秘密の指定や解除が妥当かを監視させるとした。ところが泥縄式に対応したため、機関の数は四つにも上っている。

 しかもその陣容をみると、府省庁の事務次官級が委員となるなど官僚が官僚をチェックする「内輪」の体制がほとんどだ。これでは独立性は担保できまい。唯一、国会議員が監視する組織も、秘密指定を解除する強制力はなく、追認組織となる可能性は捨てきれない。

 法施行を控え、共同通信が19行政機関にアンケートしたところ、現段階で想定される特定秘密は約46万件に上るという。

 本来、秘密の指定には、国民の知る権利を侵害しないか、きわめて慎重に精査する姿勢が求められよう。以前からの特別管理秘密をそのまま機械的に移行するような安易な手法は許されない。

 46万件を対象に、その体制を整えているのか。プロセスの開示が求められる。

 そもそも、この法律を成立させてはならなかった。国会の論議を経て、停止や廃止にすることもできる。この国が危うい方向へと向かわないか、私たち国民も常にチェックしていく覚悟を新たにしたい。

(2014年12月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ