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基地の町 乏しい安保論争 集団的自衛権 与野党力点にずれ 有権者 関心高まらず

 衆院選の争点の一つである集団的自衛権の行使容認をめぐる論戦が与野党でかみ合わない。自衛隊や在日米軍の基地を抱える広島5区、山口2区では「基地の町」ならではの事情も重なり、その度合いは強まる。戦争放棄を定めた憲法9条に直結する集団的自衛権の問題。広島5区、山口2区の論戦を追った。(小島正和、野田華奈子)

 潜水艦が係留している呉市の海上自衛隊呉基地前。「呉から隊員を戦場に送り出してはいけない」。7日、広島5区の共産党新人(62)は語気を強めた。安倍政権が7月に踏み切った、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を批判し、撤回するよう迫った。

 対する自民党前職(56)。「地方での最大の関心は景気」と、演説で地方創生や社会保障充実に力点を置く。安全保障も論じるが、「集団的自衛権」との言葉はあまり聞かれない。陣営関係者は「難解なテーマで、平和に敏感な広島であえて触れるのは得策ではない」という。

 行使容認の閣議決定を経た安倍政権は、安全保障法制の整備に着手する意向を繰り返している。一方で野党側には賛否両論がある。

 米海兵隊基地と海自隊岩国基地のある岩国市を含む山口2区。ここでも集団的自衛権をめぐる議論はすれ違う。

 自民党前職(55)は、持論である安保法制の整備を唱える一方、アベノミクスの地方への波及を訴えの軸にし、景気優先の姿勢を明確にする。

 これに対し、民主党元職(60)は集団的自衛権行使容認について「閣議決定までの手続きが強引だ」と批判を強める。ただ民主党内に、容認論と慎重論が混在しているのも事実だ。共産党新人(60)は閣議決定の撤回を求め、米軍基地の増強反対にも力点を置く。

 「基地に寄り添う町では安全保障は議論になりにくい」。海自出身者でつくる呉水交会の勝山拓会長(70)は特殊事情を指摘する。

 呉市には約5700人の自衛隊員が暮らし、街は基地がもたらす経済効果を享受してきた。2013年1月~14年3月、市民税、業者への発注などで最大約415億円が地元に落ちた。「議論が少ないのは海自出身者としては寂しいが」と勝山会長。

 有権者の関心も高いとは言えない。中国新聞社が2、3日、共同通信社とともに広島、山口両県でした衆院選の電話世論調査で、関心がある争点のトップは両県とも「消費税などの税制」。「基地問題を含めた外交・安全保障」は両県とも下位。呉市のある広島5区は外交・安全保障に対する関心度が、両県の小選挙区別で最下位だった。

 集団的自衛権に関する議論の低調。「消費税が8%に上がって、景気や暮らしの問題にみんなが敏感になっているから」。呉中通商店街振興組合の小松慎一理事長(56)は、商店街への客足の減少から、背景をそう感じ取っている。

(2014年12月9日朝刊掲載)

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