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社説・コラム

[2014衆院選 師走決戦] 秘密保護法 消せぬ懸念 知る権利侵害 ちらつく「戦前」 

 情報漏えいへの罰則を強化するための特定秘密保護法が10日、衆院選のさなかに施行された。政府はスパイ防止や同盟国との情報共有に不可欠と説明するが、「国の情報隠しが進み、国民の知る権利が侵害される」との懸念は消えない。野党は制度の見直しや法廃止を公約に掲げるものの、論戦は経済政策を軸に展開しがちだ。法の副作用を心配する市民団体はもどかしさを募らせる。(胡子洋)

 「秘密保護法は国民の目と耳と口をふさぐ。法の廃止を」。採決強行で法が成立して1年たった6日、広島市中区の中心部をデモ行進した市民団体の約200人が声高に叫んだ。参加した主婦増田千代子さん(63)=安芸区=はゴールの平和記念公園に着いて一息ついた。「もどかしいね…」

 増田さんは、秘密保護法を衆院選の重要な争点と考える。政府が7月に閣議決定した集団的自衛権の行使容認と合わせ、治安維持法で表現の自由を弾圧された戦前の姿がちらつき、「戦争の影」を感じる。

 だが、デモで行き交う人の反応に「どこか人ごとのよう」と感じた。ちょうど1年前、同様のデモに約千人が集結したが、今回は5分の1程度。増田さんは、あきらめにも似た危機感の薄れを感じ取る。

 政府は10月、秘密保護法の運用基準を示した。「必要最小限の情報を、必要最低限の期間に限り指定する」とし、秘密指定や管理状況を監視する機関を設ける。それでも「時の政権や捜査機関の裁量が大きく、乱用の恐れは拭えない」との懸念は残る。

 共同通信社が10月にした世論調査では、知る権利の侵害について58・6%が「不安を感じている」と回答し、「感じていない」の34・5%を上回った。

 この法に関し、自民党は衆院選の公約で言及していない。一方、民主党は「知る権利と報道の自由を確実に守るため、国会などの監視機関の不十分さを是正する」と明記。共産、社民両党も法の廃止を明確に掲げる。与野党間の対立軸ではあるが、増田さんは「実際の論戦は経済政策ばかり」と不満を漏らす。

 「施行前に親世代の声を届けたい」。8日、反原発を訴える広島県内の親たちでつくるグループが、法の廃止を国に求める意見書を可決するよう広島市議会に要望した。3人の子育てをする共同代表の弓場則子さん(41)=府中町=が1人で市議会を訪れた。

 グループには福島第1原発事故で避難してきた被災者もいる。「原発事故も国民に明かされていないことがあるかも」。そう漏らした被災者の言葉を、弓場さんは忘れられない。低調な論戦に不満を感じながらも、各党の公約を吟味して1票を投じるつもりだ。

特定秘密保護法
 防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野の55項目が対象で、「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあり、特に秘匿が必要」とされる情報を特定秘密に指定。原則的に30年間までは非公開にできる。内閣の承認を受ければ60年まで延長でき、「暗号」などの7項目はさらなる延長も可能。漏えいに最高で懲役10年、共謀や唆しの場合は5年以下の懲役を科す。一般の情報漏えいを罰する国家公務員法の守秘義務違反(懲役1年以下)より罰則が重く、市民活動や報道機関の萎縮を懸念する声も根強い。

(2014年12月10日朝刊掲載)

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