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社説・コラム

社説 ’14衆院選 憲法 改正の発議 早まるのか

 衆院選が公示された後になって大きな焦点に浮上してきたテーマがある。憲法改正だ。

 本紙も含めた新聞各紙の世論調査や情勢分析で、自民党の優勢が伝えられているからだ。もし317議席を上回ることになれば定数の3分の2を超え、衆院で憲法改正を発議できる要件を単独で満たす。

 そこまでは届かなくても長期政権への道筋を確かにする議席数を得れば、安倍晋三首相は自らの宿願の実現へと動きを早めるのではないか―。そうした見方が広がる。

「残念ながら…」

 改憲の機は熟したとみるか、真っ向から異論を唱えるか。とりわけ安全保障政策をめぐる有権者の選択に懸かっている。

 首相自身は公示前の党首討論会で「残念ながら改憲の機運は盛り上がっていない。まずは自民党で国民運動を展開したい」とむしろ慎重な姿勢を示した。

 この発言に引っ掛かりを覚える。本来ならば憲法を改正しなければ難しいはずの集団的自衛権の行使容認で、歴代内閣が積み上げてきた条文解釈の百八十度の変更を閣議決定するという荒業に出たのが、ほかならぬ安倍政権ではなかったか。

 国の最高法規のありようは丁寧な国民的議論を経ていくべきことに大方の異論はあるまい。そのプロセスを回避した当事者が「残念ながら…」と発言するのはいかがなものだろう。

 自民党の公約は「国民の理解を得つつ憲法改正原案を国会に提出し、憲法改正を目指す」とある。そして、この選挙で論議が全く盛り上がっていない点は首相の認識の通りだ。このままなら、いかなる結果であれ、当面の政治日程に改正手続きを載せていくことは認められまい。

 一方、首相の本心が公約に凝縮されているのも確かだろう。過去2年間の安倍政権では事あるごとに、9条を改正したい思いが見え隠れした。

安保政策の転換

 首相はまず、憲法改正の発議要件を衆参それぞれ過半数へと緩和しようと考えた。だが反発が強いとみて引っ込めた。

 片や押し切ったのが集団的自衛権の行使容認といえよう。9条の解釈変更はすなわち、戦後日本の安全保障政策を大きく転換させる内容にほかならない。それを国会での論戦を避ける形で、与党協議を経て閣議決定に踏み切った。その手法に多くの国民はいまだ納得していない。

 肝心の中身についても疑問が解消されたとはいえまい。そもそも、「日本の存立が脅かされる明白な危険」がある場合などに限るという武力行使の歯止めがあいまいだ。

 公示前の党首討論会でも、原油タンカーが行き交う中東ペルシャ湾ホルムズ海峡での機雷除去について、安倍首相は積極姿勢だったが、公明党の山口那津男代表は慎重な構えを崩さなかった。合意したはずの与党同士でさえ、この状況である。

 集団的自衛権は国連憲章も認める国家の権利である。ただ、その行使を憲法解釈の変更で容認すること自体が、国家権力を憲法が縛るという立憲主義の考え方に反するのは明白だ。

 そのためなのか、自民党の公約に集団的自衛権の言葉は出てこない。ただ「安全保障法制を速やかに整備する」とある。政権が維持され、この関連法案が来年の通常国会に提案されるなら、野党は憲法9条との整合性を厳しく追及してもらいたい。

信を問うべきは

 その意味では、消費税やアベノミクスではなく、行使容認を閣議決定した際にこそ国民の信を問うべきではなかったか。

 ほかにも安倍政権のこの2年で重大な政策変更が相次いだ。武器輸出三原則の変更や特定秘密保護法の制定である。日米防衛協力指針(ガイドライン)改定にも動く。強引な海洋進出を進める中国に対し、日米安保体制を強固にしなければとの切迫感があるのは間違いない。

 だからといって「積極的平和主義」の名の下、こちらが武力行使のハードルを下げれば周辺国の軍拡をさらに助長しよう。平和憲法の骨抜きが唯一無二の選択肢とは思えない。

(2014年12月10日朝刊掲載)

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