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社説・コラム

社説 米・キューバ国交交渉 着実に前へと進めたい

 歴史的な合意といえよう。米国とキューバが、半世紀以上にわたり断絶していた国交の正常化交渉を始めると表明した。

 両国は海を挟み、約150キロしか離れていない。その関係を象徴してきたのが、1962年の「キューバ危機」だろう。

 冷戦下でキューバにミサイル基地を建設していた旧ソ連と、海上封鎖した米国との間で核戦争が起きる恐れが高まった。

 しかし、冷戦が終わり、すでに四半世紀が過ぎている。米国とキューバの国交正常化の動きは遅すぎたという見方もある。両国は交渉を着実に前へ進めてもらいたい。

 事態が動きだしたのは、それぞれに事情があるようだ。

 キューバ側は何より経済的な理由が挙げられる。ラウル・カストロ国家評議会議長は6年前、「革命の父」と呼ばれる兄のフィデル・カストロ氏の後を継ぎ、社会主義経済の改革を進めた。だが、冷戦終結後も続く米国の経済制裁の影響は強く、国民生活は上向いていない。

 頼りにしてきた南米の産油国ベネズエラの支援も先細りになっている。ベネズエラは同じ反米の立場として石油を格安で供給してきたが、世界的な原油相場の下落で経済が混乱している。こうした状況を受け、カストロ議長は米国に接近せざるを得ないと判断したと思われる。

 一方の米国でも、いち早く経済界からキューバとの関係改善を求める声が出ていた。ロシアや中国などがビジネスチャンスとして相次いで進出し、後れを取っているとの危機感が強まったからだ。

 2期目の最後の2年間を迎えるオバマ大統領の思惑とも一致する。この時期はもう自らの選挙について気にする必要がないため、歴代大統領の多くが、後世に残るレガシー(遺産)づくりに力を入れてきた。

 オバマ氏からすれば、とりわけ外交分野で思い切った決断をしやすい。今回の合意も、その一環と受け取れよう。

 とはいえ、米国がキューバへの経済制裁を全て解除し、国交の正常化を進めるには、議会の承認が欠かせない。先月の中間選挙で上下両院とも野党の共和党が過半数を握ったため、容易ではなさそうだ。

 ただ国連総会では、キューバに対する米国の経済封鎖の撤廃を求める決議が何度も可決されている。今回の合意も日本をはじめ多くの国が歓迎する意向を表明した。国際社会の支持は、オバマ氏への追い風となろう。

 これに限らず、このところ目立っているのが、オバマ氏の積極的な協調外交の姿勢である。中間選挙での敗北で何か吹っ切れたようにも映る。

 例えば、米国は中国とともに、温室効果ガスを大幅に削減する新たな目標を表明した。いかに実効性を持たせるかはこれからだが、排出量で世界2位と1位の両国が意欲を示したことは意義深い。

 それならば、オバマ氏には、自らが掲げた「核なき世界」への取り組みも、もっと進めてもらいたい。公約していた包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准に向け、粘り強く議会を説得してほしい。

 さらに大統領の強い意志があれば実現するのが、被爆地への訪問といえよう。2年間で残せるレガシーは少なくない。

(2014年12月21日朝刊掲載)

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