×

社説・コラム

社説 第3次安倍内閣 国民の声に耳を傾けよ

 長期政権を目指しているのは確かだろう。安倍晋三首相がきのう特別国会で再び首相に選ばれ、第3次内閣を発足させた。

 戦後の歴代首相のうち、第3次まで政権を担ったのは、安倍氏を含め7人しかいない。小泉純一郎元首相以来である。

 衆院選で、安倍首相は自らの経済政策を最大の争点に掲げた。その政策の功罪については意見が分かれるが、選挙結果を踏まえれば、有権者から一定の理解を得たと受け取れよう。

 首をかしげるのは、衆院選が終わった途端、選挙戦で重きを置いたようにはみえない自らの安全保障政策について首相が熱く語り始めたことだ。きのうの記者会見でも、経済政策を最優先としつつ、安保政策の推進にも強い意欲を示した。

 有権者は決して白紙委任をしたわけではない。何より望んでいるのは日々の暮らしの安定である。首相はしっかり国民の声に耳を傾け、丁寧な政権運営を心掛けてほしい。

 試金石となるのが、安保法制の整備だろう。政権がことし7月に憲法解釈を変更して閣議決定した集団的自衛権の行使容認に基づく。来年の通常国会に関連法案を提出する構えだ。

 第3次内閣では唯一、安保法制を担当する防衛相を江渡聡徳氏から中谷元氏に交代させた。江渡氏の政治資金問題も関係あろうが、安保政策を重視する表れだろう。

 衆院選後、首相は集団的自衛権の行使容認に国民の信任を得たとの認識を示した。早計ではなかろうか。

 共同通信社が選挙後に実施した世論調査では、安倍政権の安保政策について過半数の55%が支持しないと回答した。一方、支持すると答えたのは、34%にとどまっている。

 こうした現状を踏まえれば、巨大与党の数の力で法案を押し通す姿勢は許されない。昨年の臨時国会で特定秘密保護法を強引に成立させたような事態を繰り返してはならない。

 その先に首相が見据えているのが、憲法改正だろう。これまでも着々と準備を進めてきた。

 首相は第1次政権時の2007年、改憲の是非を問うための国民投票法を成立させた。さらに、ことし6月には、積み残しになっていた投票年齢を当面20歳以上とする改正法を成立させた。改憲に向けた手続きは整ったといえる。

 見過ごせないのは、首相が憲法の中身をどう変えようとしているのかである。これまでの発言から、最終的な目標が平和主義を定めた9条の改正にあるとみて間違いなかろう。

 真っ先にその改正を狙うのか、それとも国民の反発がより小さいと思われる内容から取り掛かるのかは、不透明である。後者の例としては、大規模災害などの際に個人の権利を制限することを定める「緊急事態条項」の新設や、環境権の追加が挙げられる。

 与野党を合わせた改憲勢力は、衆院では国会発議に必要な3分の2以上の議席をすでに超えている。16年の参院選の結果次第で改憲が具体化する。とはいえ、なし崩し的に事を進めることがあってはならない。

 連立政権を担う公明党の責任も重い。平和の党として、政権の「歯止め」の役割がこれまで以上に求められよう。

(2014年12月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ