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社説・コラム

天風録 「ラミョンとラーメン」

 汗が出るほど辛い鍋。硬いままの即席ラーメンが当然のように投入された。麺がほぐれるや争うように箸が伸び…。30年前に初めて韓国を旅し、知り合った人たちと食事した記憶は忘れがたい▲あちらは「ラミョン」と呼ぶ。うどんのように鍋物に入れるのは今も定番だろう。日本人以上に国民食として愛される存在。その原点を、「インスタントラーメンが海を渡った日」(村山俊夫著)という本に教わった▲国交正常化交渉が続く52年前が舞台である。朝鮮戦争で疲弊し食べ物にも事欠く隣国から、ある企業家が即席麺の技術を求めて来日する。厳しい市場争いのさなかで相手にされないが、明星食品の創業者だけは違った▲スープ付き即席ラーメンで伸び盛りの企業。麺の技術ばかりか、門外不出のスープ配合表もこっそり渡してくれた。過去は忘れてはいけない。しかしわれわれがつくる未来は今ここから始まる―。胸を熱くする実話だ▲いまだ未来は遠いのか。日韓基本条約が結ばれて半世紀というのに、すきま風ばかり。きのうは金融危機で助け合う通貨協定も打ち切られた。互いの立場を知り、汗をかく。原点を思い起こすため、皆でラーメンでも食したら。

(2015年2月24日朝刊掲載)

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