×

ニュース

放射線 正しく理解を 関心持ち生活しよう ≪人体への影響≫

■記者 森田裕美

 東日本大震災によって起きた福島第1原発事故は、深刻な状況が続く。大気や海に放射性物質が放出され、中国地方で暮らす私たちも無関心ではいられない。目に見えないだけに不安な放射線被曝(ひばく)。さまざまな情報や難解な用語も飛び交う。正しく理解し安心して暮らすため、素朴な疑問を整理してみた。

◆性質により異なる呼称

  そもそも放射能と放射線、放射性物質って何が違うの?

  図1を見てほしい。広島大原爆医科学放射線研究所の鎌田七男元所長(分子生物学、内科学)は暖を取る炭火に例えて説明する。赤く燃えている炭が「放射性物質」。近く寄って暖かく感じるのは熱が出ているからで、これが「放射線」、この炭の持つ熱を出す能力が「放射能」だ。放射能はベクレル、放射線量はグレイ、人間が受ける線量はシーベルトの単位で表す。

◆白血病・がん 増加の恐れ

  人間が放射線を浴びるとどうなる?

  一度に多く浴びた場合と長時間少しずつ浴びた場合で違いはあるが、急性症状と晩発性障害がある。広島、長崎の被爆者を長年にわたって追跡調査する放射線影響研究所(広島市南区)の調査で、被爆後5~10年に白血病がピークを迎え、被爆10年後からがんが増えたことが分かっている。ただそれは外部被曝に関しての話だ。

◆呼吸や飲食で内部被曝

  ほかにどんな被曝があるの?

  体の外から放射線を浴びる外部被曝に対し、深刻なのは呼吸や飲食などを通じて体内に取り込んで起こる内部被曝だ=図2。体内に取り込まれた放射性物質が放射線を発し続けるため、持続的な悪影響が懸念されている。

 鎌田元所長は「大気中の線量も減少し、食品のモニタリングがなされている限り、心配し過ぎることはない。ただ、内部被曝は大気や飲食物を通じて多くの人に関係する問題。注意が必要だ」と説明する。

◆微量でも「相応の影響」

  何シーベルトなら大丈夫?

  外部被曝線量の目安は図3だ。鎌田元所長は「病気のリスクを軽減するために瞬間的に浴びる医療用の放射線と、じわじわと長期間被曝する原発事故の線量を比較するのは本来好ましくない」と断った上で説明する。

 一般的に、自然放射線のように慢性的な照射の場合は、原爆のように瞬間的に浴びた場合より疾病発生率が低いとされる。年間10ミリシーベルトを浴びるブラジル・ガラパリ市の人に疾病が多いかといえばそうではない。

 「ただ、微量でも放射線を浴びればその量に応じ、相応の影響が出てくる。今回、一般生活では主に内部被曝が問題なので、単純に外部被曝線量の目安だけで判断はできない」と鎌田元所長。

◆緊急時の基準値を設定

  原発事故の収束には時間がかかりそうだが、放射性物質の放出が続けば被曝量も増え続けるの?

  同じ場所にとどまった場合に浴びる放射線の総量を「積算被曝量」といい、原発周辺住民の避難の基準にも使われている。低い線量でも長い間続けて浴びた場合、足し合わせる必要があり、線量の総量は多くなる。

 平常時の被曝限度は年間1ミリシーベルトだが、国の原子力安全委員会は今回、「1年間で20ミリシーベルト以上の被曝が考えられる場合には避難すべきだ」という基準を政府に伝えた。国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機関(IAEA)の緊急時被曝状況における放射線防護の基準値を考慮したあくまでも暫定的な数値だという。



放射線 正しく理解を 関心持ち生活しよう ≪「食」の安全性≫


 福島第1原発の事故を受け、やっぱり気になるのが私たちの「食」の安全性。周辺地域の野菜などから暫定基準値を上回る放射性物質が検出され、海への汚染水流出も確認されている。何に注意すればいいのだろう。

◆急きょ設定「安心」の指標

  食品などに設けられた「暫定基準値」って何?

  放射性物質が付着した食品や水が安全かどうかを判断する際の基準で、福島第1原発の事故を受け、厚生労働省が急きょ設定し、都道府県などに通知した。基準値は、原子力安全委員会の示した指標を基に、水、牛乳・乳製品、野菜類などの品目ごとに設定され、ヨウ素、セシウムなどの放射性物質の性質を加味して定められている=表。根菜などは放射性ヨウ素に汚染されにくいとして除外されている。  この値を上回る食品が見つかった場合、食品衛生法に基づき、摂取制限や出荷停止などを命じられる。

◆基準内 過度の心配無用

  暫定基準値を超えていなければ大丈夫?

  基準値以下であれば、その飲食物を年間通して摂取し続けても発がんなどの影響を心配する必要がないとされる。内閣府の食品安全委員会は、例として500ベクレルの放射性セシウムを含む飲食物を1キロ食べても約0・007ミリシーベルトで、航空機で東京からニューヨークに移動する際に受ける放射線量より低い、としている。

◆ヨウ素は甲状腺に蓄積

  なぜヨウ素やセシウムばかりが取り上げられるの?

  原発から放出される放射性物質にはプルトニウムやウラン、ストロンチウムなども含まれるが、ヨウ素やセシウムは揮発性が高く大気中に広がりやすく、各地で検出されているため注目されている。

 特にヨウ素は体内に入ると甲状腺に蓄積しやすい。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の際は、汚染地域の子どもにがんが増えており、乳幼児は特に注意が必要とされている。

 チェルノブイリ周辺の線量調査などに携わった広島大原爆医科学放射線研究所の星正治教授(放射線物理学)は「現段階では、中国地方で気にする量ではないが、ほかの放射性物質を含め放射線は安全なものではなく、微量でも無用な被曝(ひばく)は避けるべきだ」とする。

◆大気や水 常にチェック

  生活に欠かせない水や食べ物が心配。私たちの身近にある放射線量は、どうやって調べているの?

  厚労省の指示で県や政令市が調査している。例えば広島県では県立総合技術研究所保健環境センターが、広島市南区の同センター屋上にある検出器で、大気中の放射線量を24時間体制で監視。雨やちりなど降下物についても測定している。飲用となる水道水は、蛇口から出る水を採取し、測定。検出結果を毎日同センターのホームページで公開している。

 現段階で平常時を超える放射性物質は検出されていない。そのため、地元で採れる農産物などについて特別な調査はしていない。県食品生活衛生課は「規制値を上回る食品は、法に基づいて出荷制限などがされており、基本的に出回ることはない。今後、環境中に基準を超える放射性物質が検出されるなどした場合にはただちに市民の口に入らない措置をとる」としている。

◆長期化にらみ監視必要

  汚染水の流出で、回遊する魚の放射能汚染も心配。中国地方で水揚げされても安心はできないのでは?

  「潮流によって魚の動きは予測が可能で、現段階で瀬戸内海など西日本の魚について心配する必要はない。魚はすべてだめなどと過敏になり過ぎるのはよくない」と、海洋環境に詳しいピースデポの湯浅一郎代表(海洋物理学)。

 ただ今後、汚染水を含むプランクトンを食べた魚が食物連鎖を繰り返すことで起こる生物濃縮が懸念される。「親潮と黒潮の潮目にあたる豊かな漁場に長期にわたって放射性物質が流れ続けるという意味では心配な状態が続く。長期化すればするほどきめ細かいモニタリングが必要」とも指摘している。

◆情報の信用性確認して

  風評に惑わされたくないけど「安心」と言われても信用できない。ネットや口コミ。氾濫する情報とどう向き合えばいい?

  福山大人間学部の飯田豊講師(メディア論)は、一方的な情報に流されるのではなく、多面的に情報を読み解くリテラシーの重要性を強調する。今回の原発の問題でも、楽観的な情報もあれば悲観的な評価もある。「情報には振り幅があるのに一面的に捉えるのは危険。多角的に情報にアクセスを」と話す。

 ツイッターや携帯メールが重要な情報伝達の道具になっている現代、次々とあふれる情報に反射的に反応して自分が誤った情報を発信する可能性もある。「まず出所の分からない情報に惑わされないこと。その情報に対して自分が問い合わせをできるか、信用できる出所か。確認して伝達する意識が大切だ」と話している。

(2011年5月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ