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米、新型の核実験 プルトニウム少量使用 「臨界前を補完」

■記者 金崎由美

 米エネルギー省傘下の国家核安全保障局(NNSA)が昨年11月と今年3月の2回、プルトニウムは使うものの核実験場を必要としない新たなタイプの実験をニューメキシコ州のサンディア国立研究所でしたことが21日、分かった。米国が核戦力を維持し続ける方針の表れとして、批判が出るのは確実だ。

 NNSAのホームページによると、同研究所にある「Zマシン」という2007年に改良された実験装置で行われた。2回とも広島、長崎で使われた原爆を開発・製造したロスアラモス国立研究所の担当者が加わった。

 この装置は世界で最も強いエックス線と、地球の中心部よりも高い圧力を発生させることができ、超高温、超高圧という核爆発に似た環境下でプルトニウムの反応などをみることができる。核爆発を伴わない点で臨界前核実験と同様だが、核実験場を使わず、火薬も必要ないなどの特徴がある。

 NNSAは「地下核実験をせずに保有核の安全性や有効性を保ちながら、オバマ政権が掲げる核セキュリティーの課題を進める助けになる」と説明。幹部は「(地下核実験や臨界前核実験を行ってきた)ネバダ核実験場での仕事を補完するものだ」としている。

 この装置で年に200回まで実験を行うことが可能だが、プルトニウムの扱いに慎重を期すため、実際の回数はもっと少ないとしている。  ネバダ核実験場の地下施設で行う臨界前核実験は、高性能火薬を用いてプルトニウムに衝撃を与え、反応を確かめる。昨年9月、オバマ政権で初めて実施したのもこの実験だった。

 Zマシンでの実験で使われたプルトニウムは8グラム未満とされる。臨界前核実験のプルトニウム使用量にはばらつきがあるが、1997年の初実験時の1.5キロと比べると大幅に少ない。

 米国は1992年を最後に地下核実験を一時停止。その代わりとして1997年から臨界前核実験を実施している。


<解説>米、新型の核実験 核保有の意思不変

■記者 金崎由美

 国家核安全保障局(NNSA)が「核兵器の信頼性」を掲げて行った新たな実験は、核兵器の質と効力を維持し続けるという「核超大国」の意思がオバマ政権でも変わらないことを示した。

 今回の実験は、核兵器の経年劣化を懸念する米国が進めてきた保有核の管理計画の一環だ。しかし、核弾頭の中枢部分「プルトニウム・ピット(塊)」の寿命は100年以上であることは既に判明。このため米国の反核団体は、核兵器の「メンテナンス」に名を借りた事実上の新型核開発にこのデータが使われるのではないかと警戒している。

 現在の米国の核政策は、冷戦期に造った核兵器を一定程度減らし、その分「質の高い」核戦力を維持するというものだ。オバマ大統領は2009年のプラハ演説で「核兵器なき世界」を唱えたが「私の生きているうちは無理だろう」として核抑止力の維持にも言及している。

 今、福島第1原発事故を機に、核と共存できるかが人類にあらためて問われている。日本政府や東京電力がいう「想定外」は、核兵器にも起こりうる。「地球上に核兵器が存在する限り、使われる可能性は消えない」と被爆者は廃絶を訴えてきた。

 核兵器を近代化することによる「信頼性」や「安全性」という言葉は、被爆地には空虚だ。核兵器をなくすことで「安全性」と「信頼性」を得るよう、米国はかじを切るべきだ。


米新型核実験 「幻滅」「許せない」 広島の被爆者ら

■記者 畑山尚史

 米エネルギー省傘下の国家核安全保障局(NNSA)が核兵器の性能を調べる新たな実験をしたことが判明した21日、広島の被爆者たちに怒りと戸惑いが広がった。専門家からは新型核兵器を効率的に開発する環境が整うとの指摘も出ている。

 「核兵器なき世界」の追求を高らかにうたい、ノーベル平和賞も受賞した米国のオバマ大統領。広島県被団協(坪井直理事長)の木谷光太事務局長(70)は「オバマ大統領は核廃絶を目指す考えを変えてしまったのではないか。結局は歴代の大統領と同じで幻滅する」と落胆を隠さない。

 もう一つの広島県被団協の金子一士理事長(85)も「許せない。どのような方法にせよ、核兵器の害はないということにはならない。さらなる開発につながるとしたら問題だ」と憤る。

 一方、米国の核専門家ハンス・クリステンセン氏は米国の現状を「古い核弾頭を事故の危険性が低い安全な弾頭に近代化する議論が行われている」と解説。ハイテク機器を使った実験で「プルトニウムの挙動に関するさまざまなデータが必要なのではないか」とみる。

 NPO法人ピースデポ(横浜市)の梅林宏道特別顧問は「新型兵器の設計に必要な情報収集の側面があると思われる」と分析した上で「オバマ大統領の次の政権で新たな核兵器開発の道具になってしまう恐れがある」と懸念する。

(2011年5月22日朝刊掲載)

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