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NPT 核のグローバル・ガバナンス 秋山信将編 条約ひもとく「解説書」

 核拡散防止条約(NPT)の運用状況や、条約体制の強化に向けた行動を議論する再検討会議があす、米ニューヨークの国連本部で始まる。5年に1度の巡り合わせだ。特に4週間の会期を経て「最終文書」を加盟国の全会一致で採択できるかに注目が集まる。

 米国、ロシアなど5カ国だけに核兵器の保有を認めたNPTは、「不平等性」という本質的な矛盾を内包する。だからこそ核軍縮の進展を点検する場となる再検討会議では「持たざる国」の不満が噴出する。核軍縮と核不拡散、原子力の平和利用の権利という条約の「3本柱」をめぐる取引も絡み、各国政府単独あるいはグループでの利害対立と調整は複雑化する。

 だが、交渉の現場で何が起こっているのか、そもそもなぜ「欠陥」条約なのか、市民には実態が見えにくい。現地報道する側も例外でない。本書は条約の歴史と現状を網羅した、今までありそうでなかった「NPTの解説書」といえる。

 今回のNPT再検討会議でも交渉の第一線に立つ外務省の担当者、研究者、米国の核抑止力への依存姿勢を変えない外務省を厳しく問いただしてきた国際非政府組織(NGO)代表らが執筆。それぞれの立場から蓄積した経験をつなぎ、被爆国の市民と共有しようとする誠実さは伝わってくる。

 NPTはここ数年新たな試練に直面している。「非人道性」という面から廃絶を推進する機運である。背景には、核兵器禁止条約の実現を求める国際世論がある。「NPT頼りで核兵器はなくせない」という見切りと表裏一体だ。

 一方で、「1970年代には15~20カ国の核兵器国が存在するかもしれない」としたケネディ元大統領の憂慮が現実とはなっていないのも、この条約があってこそ。抜きがたい矛盾と、核問題に取り組む地球規模の枠組み「グローバル・ガバナンス」としての実績と。両面をより知ることが、被爆地からの訴えを磨く一助になるはずだ。(金崎由美・ヒロシマ平和メディアセンター記者)

岩波書店・2700円

(2015年4月26日朝刊掲載)

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