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きのこ雲の記憶 絵本に 直木賞作家の佐木さん

■記者 道面雅量

 犯罪者の内面に迫るノンフィクションや小説で知られる直木賞作家の佐木隆三さん(74)が、1945年に広島県小田村(現安芸高田市)で原爆のきのこ雲を見た体験を、画家黒田征太郎さん(72)と絵本にまとめた。130冊もの著作で初の絵本。「軍国少年だった自分にも向き合った。伝えなくては、との思いに駆られた」と話す。

 題は「昭和二十年八さいの日記」。原爆が落とされ、敗戦を迎えた8歳当時の記憶を絵日記風につづる。佐木さんは朝鮮半島で生まれたが、父の徴兵を機に小田村の母の実家に引き揚げていた。

 4月15日「国のために命をささげます」と誓う8歳の誕生日から始まる。東京大空襲、沖縄戦の知らせにも「ぼく、かくごはできている」。そして8月6日、「朝ばあちゃんと田の草取りをしていたら/ピカッと光り、大きなキノコ雲が立ち上がって、/夕方からヤケドをした人たちで学校はまんいん」に。

 原爆をめぐる体験は自伝的小説「きのこ雲」(1982年)に書いたが、「遠くから雲を見た程度だから」とあまり言及してこなかった。昨秋、友人で同じ北九州市在住の黒田さんに話すと、「8歳に戻って書いたら。僕も少年の心で描く」と提案された。「ひたすら物を書き、もういいかと思う年になったが、これは別と思い直した」

 終わりは、母と広島市へ行く10月25日。敗戦前、病気がちな兄を「ひこくみん(非国民)ではないか」となじった少年は、「ピカドンで焼けのがはら」の街で「兄ちゃん、生きていてくれてありがとう」とつぶやく。

 きのこ雲の果てに見た「命の大切さ」。父を戦争で亡くした佐木さんが、時を超えて届けるメッセージだ。石風社刊、1365円。

(2011年6月28日朝刊掲載)

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