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反核運動の原点 日本被団協初代事務局長 藤居平一さん生涯追う

■記者 森田裕美

 被爆者運動の礎を築いた、日本被団協初代事務局長の故藤居平一さん(1996年に80歳で死去)の生涯を追った「まどうてくれ 藤居平一・被爆者と生きる」が刊行された。出版社で編集者を務める大塚茂樹さん(53)=川崎市=が、原爆被害者の心の叫びから生まれた反核運動の原点を、若い世代にも知ってもらおうとまとめた。

 原爆で父と妹を奪われた藤居さんは、被爆後の広島で民生委員として、被爆者の切実な声に寄り添い、県被団協、日本被団協の結成に奔走した。初代事務局長に就き、国に原爆被害の責任を問い続け、57年の原爆医療法制定にも尽力。現在の被爆者援護の根幹をつくった。

 雑誌の編集で広島の研究者に話を聞いたのを機に、藤居さんに強い関心を抱いた大塚さんは、資料や関係者を丹念にあたり1年半かけて執筆。私財をなげうって原爆被害者救援と原水爆禁止運動に尽くしたエピソードなどを交え、弱い者に温かく権力にこびず、「情」と「理」で運動を進めた藤居さんの姿を生き生きと描いた。

 タイトルの「まどうてくれ(元通りに戻してくれ、償ってくれ)」は、藤居さんが生前よく口にしていたという。「傷ついた心身や亡くなった人は元には戻らないが、それでも立ち上がった被爆者と、共に歩んだ藤居さんを象徴する言葉」として選んだ。

 自身も学生時代から反核運動に関わってきた大塚さんは「福島第1原発事故で若い世代も反核に目覚めている。当時と社会状況は違うが、藤居さんの生き方から学べるものは多い」と話す。四六判、224ページ、1470円。旬報社。

(2011年6月30日朝刊掲載)

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