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社説・コラム

キーパーソンがゆく 基町プロジェクト「M98」(広島市中区)・長野佳嗣現地スタッフ 

アートでにぎわいづくり 高齢化進む町に新風

 公営アパートが立ち並ぶ広島市中区基町地区。区と市立大(安佐南区)が進める「基町プロジェクト」の中心メンバーとして、一角にある「M98」を拠点に、にぎわいづくりに取り組む。本業は同大芸術学部の非常勤助教。柔軟な発想とアートを生かした仕掛けで、住民の高齢化が進む町に新風を吹き込んでいる。

 アパート内のショッピングセンターにあった空き店舗(53平方メートル)を改装し、昨年5月にできた拠点。名称は基町の「M」と店舗番号にちなむ。原則土、日曜にオープン。住民と交流を深め、イベントを企画するのが仕事だ。画家によるライブペイント、屋上を生かしたカフェの出店、情報紙の発刊…。「ふらりと寄ってくれる常連の住民も増えた」。地区内外から好評を得て、手応えを感じる。

 一方で、地区の将来への不安も感じている。原爆投下後に多くの市民が身を寄せた基町を、広島県と市が再開発したのが1950~70年代。ことし3月末時点の高齢化率は44・1%で、市平均の2倍に迫る。「古くからの住民は強い絆で結ばれ、アパート群の建築物としての価値も高い。廃れさせたくない」

 被爆70年の夏に合わせ、地区の戦後の歩みを伝える写真を住民に募ったところ千枚以上が寄せられた。展示会場のショッピングセンターでは連日、昔話に花が咲いた。「町への愛着を呼び起こし、外部にその魅力を発信して人を呼び込みたい」。もう次の仕掛けを考えている。(田中美千子)

ながの・よしつぐ
 1988年、愛媛県今治市生まれ。2012年、広島市立大芸術学部デザイン工芸学科卒。13年4月から同非常勤助教。14年5月の「M98」開設時から現地スタッフを務める。専門はグラフィックデザイン。

(2015年9月5日朝刊掲載)

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