×

社説・コラム

社説 安倍総裁再選 多様性なき党の明日は

 この無投票が意味するものを安倍晋三首相はどこまで真剣に考えていよう。きのう告示された自民党総裁選は野田聖子氏が立候補を断念し、3年の総裁任期を終える首相の再選が決まった。かつて意欲を見せた石破茂氏らは最後まで音なしだった。

 再選を果たした首相は「継続は力」「一致結束していこう」と口にした。長期政権への道が開けたとばかりに自信満々に見える。このまま安全保障関連法案の採決にも突き進む構えなのだろう。ただ衆参で約400議席の巨大与党のありようを考えるなら健全な姿とは思えない。

 異例の無投票になぜ至ったのか。民主党の自壊と迷走にも助けられて、自民党は確かに3回の国政選挙に圧勝した。その実績に加え、石破氏を閣内に取り込むなど首相は再選への布石を着々と打ってきた。もはやライバルが党内に見当たらない「安倍1強」の色合いが濃い。

 党との関係においても、首相官邸の力が圧倒的に優勢といえる。今回は内閣改造や党役員人事を控え、各派閥とも首相側に露骨にすり寄った感がある。野田氏の推薦人集めへの締め付けは相当なものだったようだ。

 しかし同時に失ったものもあるはずだ。仮に候補者が出ていれば通常なら公開討論があり、地方の党員も1票を投じるなど曲がりなりにも党を挙げた選挙となっていた。安倍政権の3年間を党として総括し、同時に国民にアピールする貴重な機会を逃したと言わざるを得ない。

 野田氏が言う通り「多様性」こそ、かつての自民党の特色だったのは間違いない。弊害は目立ったものの、総裁選を中心にした派閥のせめぎ合いが党全体のエネルギーを高めた面もある。なのに今は異論があっさり封じられてしまう。議院内閣制の一翼を担う政権与党として、この活力のなさは何なのか。

 そもそも今回、無投票に持ち込まざるを得なかった理由は、安保法案の参院審議のヤマ場と重なったことだ。いわば政権の自己都合にすぎない。目先の国会対応に腐心し、大切な党首選びを軽視する姿を国民の側はどう受け止めるだろう。

 「ポスト安倍」が見えない中で首相は総裁としては3年のフリーハンドを得たことになる。きのうの政策所見では「アベノミクスは第2ステージへ」と経済最優先の姿勢を示した。東京五輪に向けて「先頭に立つ覚悟だ」としたのも目を引く。あるいは党則改正を経た五輪までの続投まで視野に入れるのか。

 とはいえ現実の政権運営はいばらの道だろう。安保法案に対する国民の批判だけではない。看板の経済政策は世界経済の減速も相まって行き詰まりつつある上に、1年半後には消費税の10%への再増税を控えている。成長戦略の柱に据える環太平洋連携協定(TPP)にしても、漂流の一歩手前にある。

 さらに首都圏への一極集中も止まらず、「地方創生」の掛け声と裏腹に地方の疲弊と人口減への処方箋はいまだ見えない。このままなら来夏の参院選は、苦戦必至との見方すらある。

 国民政党を掲げるなら「この道しかない」ではなく幅広い道筋を提示し、かつ信頼に値する次のリーダーを育てることが欠かせない。その姿勢を持たないとすれば遠からず党勢が先細ることを覚悟してもらいたい。

(2015年9月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ