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社説・コラム

社説 在外被爆者と援護法 国は幅広く救済を急げ

 「被爆者はどこにいても被爆者」という、積年の訴えに応えた意義深い判決である。最高裁は海外に住む被爆者にも被爆者援護法に基づき、国が医療費を全額支給するべきだという初めての判断を示した。大阪地裁、大阪高裁の判決を踏襲した。

 被爆者健康手帳を持つ在外被爆者は韓国、米国、ブラジルなど33カ国・地域に約4280人いるが、援護策は明らかに遅れてきた。とりわけ医療費は徐々に改善されたものの、援護法とは別枠の制度で年30万円を上限に助成するにとどまってきた。

 被爆者たちの高齢化は進み、渡日治療はますます困難になっている。専門的な治療を受ける機会が少なく健康への不安も募っていよう。人道的見地からもうなずける司法判断といえる。

 判決のポイントは被爆者援護法の条文を素直に解釈したことに尽きよう。日本国内の居住や受診を要件にしていないことを指摘し、全額支給しないのは「法の趣旨に反する」とした。つまり在外被爆者を除く規定が法律にないのに、厚生労働省が運用と称して対象外としたことを批判した格好になる。「援護法は国内での医療を想定する」「各国の制度が異なり、適正に支給できない」といった国側の言い訳はまたも退けられた。

 最高裁判決の意味は、援護法が「国家補償」の性格を持つことをあらためて裏付けたことにもあろう。大阪地裁判決では「戦争を遂行した国が自らの責任で救済を図る」と本質をうたい、その流れが二審、最高裁に引き継がれたとみていい。

 援護を切望しながら亡くなった多くの被爆者を思えば遅すぎよう。国の責任は重く、猛省すべきである。これまで在外被爆者援護は司法判断が出てからの見直しを繰り返してきた。こうした姿勢はもう許されまい。

 厚労省は判決を受け、広島地裁など別の訴訟2件分も含め、全員を支給対象とする方針を決めた。できるだけ早く全額支給が行き渡るよう努力すべきだ。

 ただ実際に全額支給するには多くの課題が待ち受ける。国ごとに事情が異なるだけに、各国政府との連携も必要になる。

 公平な支給を理由に診療内容を証明する資料の提出などが想定され、手続きが煩雑になる恐れもある。助成制度では公的保険が薄いブラジルの場合、民間保険料も対象にしてきた。援護法に基づく運用に切り替わっても維持すべきだ。結果的に後退することがあってはなるまい。

 もう一つの問題は被爆者手帳を持たない人をどう救済するかだ。医療費支給は手帳を持つ人だけが対象であり、格差がさらに広がりかねない。

 在外被爆者の多くを占める韓国の場合、植民地時代に日本で被爆して戦後に帰国した人たちだ。ただでさえ支援が遅れ、在外公館での申請の道こそ開けたものの、手帳申請に必要な証人が見つからない場合もある。弾力的な運用を模索すべきだ。さらにいえば国交のない北朝鮮の被爆者の存在も気掛かりだ。

 同時に日本国内の援護策を充実させるのも当然だろう。援護法は施行20年である。いっそ法改正に踏み切り、基本理念として「国家補償」の文言を明記したらどうか。その上で原爆症認定のさらなる拡大や「黒い雨」降雨地域の見直しなど懸案の議論を急ぎたい。

(2015年9月10日朝刊掲載)

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