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社説・コラム

社説 大震災4年半 被災者の声今こそ聴け

 5年に1回の国勢調査で「人口ゼロ」という町が福島県内に出ることになろう。原発事故で全住民がいまだ避難を強いられている双葉町や大熊町などだ。東日本大震災から、きょうで4年半。被災地の苦境が続いていることの象徴ともいえる。

 むろん時間とともに古里に帰還する動きは進む。今月には、ほぼ全域が事故現場から20キロ圏内の楢葉町への避難指示が解除された。除染に一定のめどが付いて「安全は確保されている」との理由である。全町避難していた自治体では初めてであり、住み慣れた家に戻りたい人にとって朗報なのは間違いない。

 しかし現実にはこの間に「古里離れ」が加速した感がある。帰還の意思を示した人とみていい「準備宿泊」の登録者は780人にとどまった。元の町民の1割強にすぎない。

 医療機関や商店もほとんどが再開せず、小中学校も閉校が続く。除染廃棄物が町内に仮置きされるなど安心して暮らせないとの声も聞く。古里に戻りたくても二の足を踏む気持ちも、やむを得まい。避難指示解除自体が時期尚早との声もあった。

 楢葉町に限らない。政府や東京電力に忘れてほしくないのは住民の率直な声に耳を傾ける責務だ。順調な復興ぶりをアピールしたり、かけるお金を少なくしたりするために、ことさら「自立」を急がせる視点が透けて見えるのは気掛かりだ。

 絶えざる不安に寄り添い、ニーズに細かく対応することが震災直後から変わらず求められることを肝に銘じてほしい。

 津波を含めた震災全体でも同じことがいえよう。今なお仮設住宅などで避難生活を送る被災者は19万人を超す。

 国は本年度で終わる「集中復興期間」は延長せず、2016年度から「復興・創生期間」に移行させる。事業の一部について、地元負担も求めることで復興にブレーキがかかるのではないかとの懸念も被災地には残っている。現に復興庁の概算要求を見ると総額こそ増えたものの、3県を中心とした住宅再建や産業再生に関わる予算が減らされる見通しだ。

 福島に関していえば東電を通じて支払われる避難者への賠償金が17年度で打ち切られることも不安に拍車を掛けよう。

 被災地のインフラは一定に復旧しているのは確かだ。国が投じる予算は、いずれ減っていくのは仕方ないとの声もあろう。だが、それも被災者が本当に必要とするものをきちんと手当てしてからの話ではないか。

 共同通信の集計では仮設住宅で暮らす被災者のうち、住居の移転・再建について経済的事情などから今後の方向すら見いだせない人は約3400世帯に及ぶという。重い数字である。

 東北地方の基盤である第1次産業の復活も道半ばであり、被災地の果物やコメの取引価格は低迷が続いている。日本全体が外国人観光客増加に沸く中で、観光地のにぎわいも戻らない。「災後」は今も続いている。

 「被災地の復興なくして日本の再生はない」。安倍晋三首相は繰り返してきた。しかし自民党総裁選に当たっての言動からは原発事故の対策や復興に力点を置く姿勢が必ずしも見えなかった。半年後に震災5年の節目を迎える。息の長い支援が必要だと認識を新たにしてほしい。

(2015年9月11日朝刊掲載)

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