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社説・コラム

天風録 「ゴー・フォー・ブローク」

 ハワイ、ハワイと夢見てきたが、流す涙は甘庶(きび)の中(ホレホレ節)。わが広島や山口の先人たちの労苦がしのばれよう。ことしハワイへの第1回官約移民から130年になる。今生きる国と父祖の国、そのはざまにあえいだ時代もあった▲「本心は隠せ」と母。「日本の軍人のように命懸けでやれ」と父。今生きる国に忠誠を誓えと言い聞かされた。442連隊に志願し、上院議員に上り詰めた老翁が回想する。辻仁成(ひとなり)さんの長編小説「日付変更線」から▲かの連隊は第2次大戦中、全米の若き日系人たちで編成した。合言葉はゴー・フォー・ブローク(当たって砕けろ)。欧州戦線ではナチス・ドイツと戦い、おびただしい犠牲を払った▲だが忠誠を誓った国はベトナム、アフガン、イラクと「正戦」の泥沼にはまる。ゴー・フォー・ブロークは「聖戦」をかたる者たちによって、罪なき市民に向けられる。この70年、世界はどこでどう間違ったのだろう▲日本では平和の名を冠した諸法案が、国会成立のお墨付きを得そうだ。正戦の国は手ぐすね引いて待っているに違いない。「当たって砕けろ」はわしらの代でしまいで―。安らかに眠る兵たちの声が聞こえないか。

(2015年9月13日朝刊掲載)

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