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社説・コラム

天風録 「ハチと国会」

 焼けるような痛みだった。子どもの頃、スズメバチに足を刺されたのが忘れられない。餌とするバッタやイモムシが減るこの時季、凶暴性を増して自分たちより弱いミツバチに襲い掛かる▲巣を守るため、日本古来のミツバチが繰り出すのは秘技「布団蒸し」。数百匹で固まり、敵を封じ込める。みんなで体を震わせて中の温度を高めるさまは押しくらまんじゅうを思わせる。スズメバチは熱さで息絶える▲きのう国会を取り囲む人垣が放つ熱量も、相当に跳ね上がったはずだ。安保法案の「Xデー」と踏んで、口々に撤回を叫ぶ人たち。それを取り囲むように並ぶ警察車両…。ニュースで見た光景が目に焼き付いた▲国会という固まりと国民との温度差は明らかだ。これがハチなら勝負は見えていよう。だがやせ我慢なのか涼しげな顔を崩さない与党の面々。そういえば異論を聞き入れず退けることを、古い言葉で「蜂払い」という▲巣の中の子どもを守ろうとミツバチは倒れても、なお万単位の仲間が後に続く。けなげで頑固なまでに。世論の布団蒸しも、たやすくは冷めないだろう。「蜂起」の2文字にもハチがいる。選挙の1票という鋭い針のことをお忘れなく。

(2015年9月17日朝刊掲載)

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