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社説・コラム

天風録 「再考の府」

 これぞ生放送の妙味だろう。大相撲中継を珍しく差し置いて、NHKが気前よく流す参院特別委のやりとりに見入った。時間切れとなる会期末が迫り、国を揺さぶる安保法案の行方から目が離せない▲委員長の不信任動議が議題で、少数野党も時間制限なしでのびのび弁舌を振るった。やじも目立たない。当の鴻池祥肇委員長が「参院は衆院の下部組織、官邸の下請けではない」とかじを取ってきたたまものだろう。ノーを突き付けたはずの野党からも、持ち上げる声が聞こえた▲ところが画竜点睛を欠くとはこのことだ。動議が否決されるやいなや本人が委員長席に戻り、与野党もみくちゃの採決になだれ込んだ。はた目には、何が何やら分からぬ仕業。これでは「良識の府」の看板が泣く▲自らが矢面に立つ討論を腕組みで見守る鴻池氏の姿を、カメラが捉えていた。審議不足を難じる野党と採決を促す与党。どちらに理があるか、判じかねているような顔にも映ったのだが▲84年前のきょう満州事変が起きた。軍部の独走を貴族院が阻めなかったことを反省する―。審議中に、そう口にした鴻池氏は参院の役割を「再考の府」と見定める。戦後70年のきょうは、さて。

(2015年9月18日朝刊掲載)

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