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社説・コラム

安保法 こう見た 広島大院2教員に聞く 民意聞かぬ政権象徴/国際協調 大きな前進

 違憲性や存立危機事態の定義などをめぐり国会で議論が繰り広げられた安全保障関連法が19日、成立した。多くの国民が反対や賛成の声を上げたこの法が私たちの生活にどう影響し、どんな課題があるのか。審議の在り方をどう評価するのか。中国新聞のインタビュー連載「どう見る 安保関連法案」に登場した広島大大学院の教員2人に聞いた。

川口隆行准教授(43)=教育学研究科

民意聞かぬ政権象徴

 17日の参院特別委員会はインターネット中継で見ていたが、少し目を離した間に可決されていた。何が起きたかすぐに理解できず、フェイスブックで友人に確認したくらいだった。反対運動が高まりそうな連休の前に可決したかったのだろうが、これまでの審議や政府の姿勢を象徴しているように思えた。

 安倍政権は国民の声を聞く耳を持っていないようだ。しかし選挙で選ばれた国会議員が政治をすることだけが民主主義ではない。1票の格差や小選挙区制での死票など、そもそも現在の代議制民主主義は問題を抱えている。その不完全さを補うものとしてデモや集会、署名などがある。海外では当たり前のことだ。

 そういった活動を特別視する雰囲気がこれまでの日本社会にはあったが今回、少し薄らいだと感じる。もちろん、それらだけで政治が変わるわけではないが、この積み重ねが選挙で選ばれた人の意識に必ず影響してくると信じている。

 大学人として、これから法律を実質化する動きに対抗していく。経済的な事情から自衛隊に誘導される「経済的徴兵制」が学生にとって現実のものになる危惧があるし、研究面に目を向けても武器開発だけでなく平和構築論なども軍事研究に絡め取られるかもしれない。大学の在り方を皆で考え続けなければ、存立基盤が揺らぐ。

 教員として、自分の半径3メートルくらいしか見えていない若者が社会や政治を考えるきっかけをつくり、手助けをしたいと考えている。(新本恭子)

秀道広教授(58)=医歯薬保健学研究院

国際協調 大きな前進

 国際社会のルールである国連憲章は、集団的であれ、個別的であれ自衛権を認めている。集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法が成立したことは、民主的な国々との国際協調を進める意味で、大きな前進だ。中国などの軍事的脅威が強まっているからこそ、協調の重要度は増している。

 「戦争法」という飛躍した論理で安保関連法への反対を続けるのではなく、日本の国力をどう上げていくかを考えることが、日本の自由と繁栄を守ることにつながる。そのためには国防力はもちろん、経済力、外交力を高める不断の努力が必要だ。その積み重ねが、他国との紛争を防ぐ平和的な話し合いの土台を築く。

 歴代政権は、集団的自衛権の行使を「違憲」として議論を封印してきた。今回、政府の説明は不十分で、国会審議がかみ合わなかった点は残念だが、その壁は打ち破られた。国民が日本の平和のため、自身の役割と国の責任を真剣に考える好機ではないか。

 テロやサイバーテロなど国家間の争いは今やさまざま。まずは、国民が日本を取り巻く軍事的脅威をしっかり自覚することが大事だ。政府はもっとその説明を尽くしてほしい。

 憲法を守ることが目的化しては意味がない。日本の平和と繁栄が、最優先されるべきだからだ。今回の法制定は、喫緊の課題に憲法解釈で対応した点で妥当といえる。自衛隊を平和のための軍隊と位置付けるなどの修正は今後、進めていく必要がある。(樋口浩二)

(2015年9月20日朝刊掲載)

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