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社説・コラム

天風録 「彼岸花の色」

 高い空を白い雲が駆けていく。川土手を歩いていると、鮮やかな赤が目に入り、どきりとする。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)がすっと伸びていた。この時季に開く美しい花なのに、どこか怖くもある。きょうは秋分、彼岸の中日▲ひがん花が、赤い布(きれ)のようにさきつづいていました―。新美南吉の「ごん狐(ぎつね)」に悲しい光景がある。兵十(ひょうじゅう)のおっ母を弔う列が花の中を進むのを見て、ごんはいたずらを悔いる。死人花ともいい、備後では数珠花と呼ぶ▲毒もあり、ほの暗いイメージに彩られてきた。<彼岸花さくふるさとはお墓のあるばかり>(種田山頭火)。人々を弔った地が忘れられないよう、強い色を放っているのかもしれない。南は沖縄まで各地の墓地や田のあぜに群生する▲「基地は強制接収でできた。土地を進んで提供したのではない」。沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事が国連で訴えた。県民の自己決定権や人権がないがしろにされてきた「歴史」を切々と。辺野古移設を止める覚悟もあらためて▲米軍基地の敷地内でも花が揺れているだろうか。「悲しき思い出」の花言葉がある一方、「情熱」「独立」という語も見える。沖縄戦の犠牲者の無念と県民の憤りが、赤を濃くしているに違いない。

(2015年9月23日朝刊掲載)

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