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在朝被爆者調査 健診実現せず 広島県医師会帰国

 北朝鮮に住む被爆者の健康診断を目的に平壌などを訪問した広島県医師会の碓井静照会長たちが16日、北京などを経由して帰国した。健診は北朝鮮側の十分な協力が得られずに実現しなかった一方、健康状態の聞き取り調査などをした。

 訪問団は医師6人と事務局2人の計8人。11~15日の滞在中、平壌と同市郊外の沙里院で被爆者計10人と面会した。胎内被爆2人を含む60~80代で、9人が広島で被爆したという。

 全員が胃腸疾患や貧血を抱え「話を聞くだけでなく具体的な医療支援を」「日本で検査を受けてみたい」などと訴えたという。

 訪問団はまた、現地の被爆者団体「反核平和のための朝鮮被爆者協会」、碓井会長が日本支部長を務める核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の北朝鮮支部とも意見交換した。

 県医師会は今後、聞き取り内容などを基に日本と国交がない北朝鮮の被爆者支援の方向性を検討する。

碓井医師会長インタビュー 詳細に聞き取り 医療支援 緊急の課題

 北朝鮮から帰国した広島県医師会の碓井静照会長に、現地の被爆者の状況や支援の課題を聞いた。

―被爆者と面会した印象は。
 健康不安や差別への恐れは、日本の被爆者と同じ。「きょうだい8人のうち5人ががんになった」「親が被爆について隠し、自分は病気になるまで何も知らなかった」などと訴えていた。
 北朝鮮政府から被爆の証明書を交付され、優先的に治療を受けられるそうだ。それでも「日本ならもっと良い検査が受けられるのではないか」「薬がほしい」などと言われた。医療支援は緊急の課題という思いを新たにした。

―なぜ健診は実現しなかったのですか。
 直前まで朝鮮労働党の行事があり、受け入れ態勢が十分でなかったことも理由だろう。また「日本から来る人たちは結局何もしてくれない」「そもそも日本の植民地支配のせいで被爆した」という批判も聞いた。
 ただ被爆者から詳細に話を聞くことができた。今後につながる意義深い訪問だったと思っている。

―支援の方向性は。
 国交がないことや拉致問題といった日朝間の課題はあるが、医師であるわれわれが目指すのは、あくまで政治問題とは切り離した人道支援。「どこに住む被爆者にも同じ医療支援を」という立場だ。
 被爆証明書を活用させてもらって被爆者を把握し(北米や南米でもしているような)現地健診や、渡日治療の支援ができないかの可能性を探りたい。 (金崎由美)

(2011年10月17日朝刊掲載)

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