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社説・コラム

社説 米中首脳会談 緊張緩和へ全力挙げよ

 オバマ米大統領と、中国の習近平国家主席の会談が米ワシントンで開かれた。協調ムードの演出の陰で、大国間の不信と対立があらためて鮮明になったのではないか。

 オバマ氏は南シナ海での領有権問題などを念頭に、紛争の平和的解決や人権問題の改善を要求。一方の習氏は、互いの利害を尊重しつつ介入を控える「新たな形の大国関係」を訴え、両者がけん制し合った形である。

 しかしポスト冷戦で世界が混迷を深めている今、米中が対立している暇などないはずだ。ロシアの拡張主義やイスラム過激派の増長は続き、世界経済も不安定さを増しつつある。両国は、地球全体を見渡した関係づくりが求められていることを、しっかり認識してもらいたい。

 両首脳の微妙な関係は、会談後の記者会見が示していよう。

 オバマ氏が、中国に国内の人権尊重を促したのに対し、習氏は「各国には異なる歴史や現実がある」と言い返した。両者はほとんど目を合わせず、よそよそしい態度を貫いた。

 背景には、互いに譲歩することが難しい両国内の事情があろう。米国では海洋進出を続ける中国に対し強硬論が出ている。中国も景気が失速する中「米国と対等に渡り合う」姿を宣伝したい思惑があるのだろう。

 そうした中、曲がりなりにも会談が一定の成果を生んだことは評価できる。

 まず焦点だったサイバーセキュリティーについて、両国が企業の情報を盗む行為をしないことで合意した。さらに軍用機の偶発的な衝突を回避するための文書をまとめたことは、緊張緩和への大きな前進といえる。

 また環境問題について、途上国向けにそれぞれ30億ドル規模の金融支援を行う方針を示したことも重要だ。11月末、パリで国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が始まる。両国の協力により会議が進展することに期待したい。

 一方で、対立の根深さから、棚上げになった問題も多い。南シナ海で中国が周辺国と領有権を争う海域を埋め立てている問題では、オバマ氏は「重大な懸念」を伝えた。しかし習氏は「中国固有の領土」と反論し、平行線に終わった。

 また人権派弁護士の一斉拘束など、人権状況の悪化についても中国は聞く耳を持とうとしていない。このままでは、世界から厳しい目が注がれることを中国は自覚すべきである。

 今回、両国が融和的な姿勢を演出したのには訳があろう。経済の結び付きが深まる中、かつての米ソのような全面対立に陥れば、痛手が大きいとの認識があるに違いない。

 特にオバマ政権には、中国といがみ合うのでなく、相互依存を深めながら、中国が国際社会にとって望ましい方向へ進むよう働き掛ける姿勢が明確にあるはずだ。

 この戦略は日本にとっても重要な意味があるのではないか。

 日本政府は、安全保障関連法の審議で中国を「脅威」と強調し、抑止力を高めることが唯一の解決策としてきた。

 しかし力には力で対抗する姿勢ばかりでいいのか。圧力には屈しない姿勢を保ちつつも、対話の中で中期的に緊張緩和を図り、東アジアの平和と安定を維持するビジョンを醸成したい。

(2015年9月27日朝刊掲載)

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