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原発事故の罪深さ伝える 動物世話する男性を長期取材 中村真夕監督映画

 福島第1原発から10キロ余り、事故後の立ち入り制限が今も残る福島県富岡町。その地で一人、動物の世話を続ける男性を追った中村真夕監督(42)の映画「ナオトひとりっきり」は、不思議な余韻の残るドキュメンタリーだ。

 主人公は「ナオト」こと松村直登さん(56)。旧約聖書の「ノアの箱舟」を連想させる活動のせいか、国内よりも海外メディアの注目を浴びた。中村監督はそのギャップが気になり、被曝(ひばく)のリスクも負いながら長期取材に挑んだという。

 「原発事故でほぼ無人の地域だが、訪れてみると桃源郷のような風景が広がっていた」と中村監督。緑豊かな山すそに、牛やポニー、ダチョウ、猫…。映画は、松村さんと動物たちののどかでユーモラスなやりとりを映し出す。

 だが、原発事故後の松村さんの歩みは、のどかどころか壮絶だ。持病のある母が避難を拒んだため、両親と富岡町にとどまるうち、置き去りにされて死を待つ牛や犬を目にする。

 やむにやまれず餌やりを始めた松村さんは、親族が両親を県外へ連れ出した後も、動物を見捨てられない。畜産家でも動物愛護家でもないが、「ひどい目に遭わされているのを放っておけなかった」。母は事故後3年を前に亡くなる。

 中村監督は「目の前の牧歌的な風景と、原発事故の罪深さと。それが重なっている異常さに戸惑った」と言う。

 富岡町には「夜の森」という桜の名所があり、映画はその満開のさまも映す。しかし、そこには撮影に同行した松村さん「ひとりっきり」。監督と戸惑いを共有する人は多いだろう。

 広島市西区の横川シネマで10日まで、午前10時から1回上映している。(道面雅量)

(2015年10月7日朝刊掲載)

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