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岩国爆音で国に賠償命令 過去分5億5800万円 飛行差し止め却下 山口地裁支部

 米海兵隊と海上自衛隊が共同で使用する岩国基地(岩国市)の騒音被害をめぐり、周辺住民654人が国に損害賠償や夜間・早朝の飛行、米空母艦載機移転の差し止めなどを求めた岩国爆音訴訟で、山口地裁岩国支部は15日、「違法な権利侵害がある」として過去の騒音被害に限り約5億5800万円の支払いを命じた。将来分の被害に対する請求や、飛行、艦載機移転の差し止めはいずれも退けた。

 岩国の基地騒音をめぐる初の司法判断。原告は、国の住宅防音工事の助成対象となるうるささ指数(W値)75以上の指定区域に住む。

 判決理由で光岡弘志裁判長は「会話や思考が妨げられるなどの生活妨害や睡眠妨害に伴う精神的苦痛がある」とし、基地周辺の騒音をがまんできる限度(受忍限度)を超えて違法と認定。国が騒音対策で滑走路を沖合に移設した後も「なお相当に強い騒音にさらされている」と効果の限界を指摘した。

 賠償額は騒音の程度に応じて1人当たり月額4千円から1万6千円とした。一方で沖合移設を考慮し、移設後の一部原告の慰謝料を減額。地域によっては賠償を認めなかった。将来分の被害は算定に必要なデータが蓄積されていないとする一方、「艦載機移転が実施された場合、騒音の程度は現時点と比べて高まる」と推認した。

 飛行差し止めの訴えに対しては、艦載機を含む米軍機に関して「国の規制権限が及ばない」、自衛隊機も「行政訴訟ではなく民事訴訟での請求は不適法」と、過去の大半の判例を踏襲した。

 原告側弁護団の吉川五男弁護団長は「全国の基地訴訟で積み上げてきた賠償基準に沿うような損害額が認定された。岩国の初めての判決で大きな意味がある」と話した。中国四国防衛局の菅原隆拓局長は「飛行差し止め請求などで主張が認められたのは妥当な判断と評価する。賠償請求の一部が認容されたのは裁判所の理解が得られず残念」とのコメントを発表した。(野田華奈子)

根源に不平等協定

 軍事ジャーナリスト前田哲男氏の話 判決は米空母艦載機移転の差し止めは認めなかったが、将来的に岩国の騒音が増大することに含みを残した。司法の場で米軍機の飛行差し止めが認められない根源は、不平等な日米地位協定にある。国の管理権が及ぶよう、是正を働き掛けることも必要だ。

米海兵隊岩国基地
 岩国市中心部に近い臨海部にある米軍基地で総面積約790ヘクタール、滑走路の長さは約2440メートル。岩国市によると、FA18ホーネット戦闘攻撃機など米軍75機と、基地を共同使用する海上自衛隊の36機が配備されている。国が騒音対策で滑走路を約1キロ沖合に移し、2010年5月に運用を開始。12年12月に岩国錦帯橋空港が開港し、軍民共用となった。在日米軍再編で17年ごろまでに米海軍厚木基地から空母艦載機59機の移転が予定され、極東最大級の基地となる見通しだ。最新鋭ステルス戦闘機F35の配備計画も浮上している。

うるささ指数(W値)
 航空機の騒音が生活に与える影響を表す国際基準。飛行回数や時間帯を加味して計算する。W値75以上の区域が国の住宅防音工事の助成対象で、岩国基地周辺では岩国市と大竹市阿多田島の計約1万9千世帯。国際基準は2013年4月からW値に代わって、Lden(エルデン、時間帯補正等価騒音レベル)が採用されている。

(2015年10月16日朝刊掲載)

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