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伊方原発 再稼働へ <中> 瀬戸内海

閉鎖海域 長期汚染の恐れ 漁業者の関心高まらず

 わずか3%―。2014年の福島県内の海面漁獲量(約740トン)を、東京電力福島第1原発事故前の5年間の平均漁獲量(約2万5千トン)と比べた割合だ。同県沖では、安全性が確認された魚種に限って試験操業が続く。国が出荷を制限している魚種はヒラメやクロダイなど29種類に上る。事故から4年半余り。漁業再生の道のりは遠い。

 年明け以降に再稼働する見通しとなった四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は、閉鎖性の高い瀬戸内海に面する。本州と四国、九州に囲まれた海域。仮に事故が起こった場合、専門家は「その影響は福島に比べてずっと長期に及ぶだろう」と指摘する。

入れ替えに2年

 伊方原発から瀬戸内海への放射性物質の広がり方をグループで解析している東京大大学院の升本順夫教授(海洋物理学)は「瀬戸内海は、外洋から流れ込む海流が弱い。その上、一方向に流れるのではなく、潮の満ち引きで6時間ごとに行っては返す往復流があるのが特徴だ」と説明。放射性物質は、なかなか外洋に出ず、長くとどまるとみる。

 伊方原発の再稼働に反対してきた環境保護団体「環瀬戸内海会議」の副代表で、かつて呉市にあった中国工業技術試験所(現産業技術総合研究所)で30年余り瀬戸内海の環境汚染問題に取り組んだ湯浅一郎さん(65)も「瀬戸内海は9割の水が入れ替わるのに約2年かかる」と海水の滞留期間の長さを強調する。その上で、「上下方向の海流もあるため、海域内の放射性物質は海底近くにも及ぶ」と説く。

 福島原発事故を受けて四国電力は「汚染水対策を強化した」と放射性物質の流出に対して一定の準備をしていると説明する。事故発生時には、原発の排水の放水口付近の海域にカーテン場のフェンスを広げて汚染水の流出を防いだり、排水溝に放射性物質を吸着する石であるゼオライトを置いたりして対応するとしている。

100パーセント安全「ない」

 県境の海域まで60キロである広島県内の漁業関係者からは、伊方原発の再稼働について「あまり話題に上ったことがない」「安全面には多少敏感になるが、切羽詰まった問題ではない」との声が出ており、関心は必ずしも高くない。県漁業協同組合連合会(広島市西区)は「原発再稼働がこれまで会合で議題になることもなく、今後も意見集約などの予定はない」という。

 「福島でも事故前は同じような反応だった。原発は絶対に安全だと信じ、事故想定もしていなかった」。漁獲量の落ち込みに悩む福島県漁業協同組合連合会(いわき市)で、災害復興プロジェクトチームの一員を担う野口和伸さん(61)は振り返る。「100パーセントの安全など存在しないことは事故で明らかになった。原発の地元、周辺の住民や自治体関係者にとって、リスクや事故時の備えの在り方を考えておくことは最低限必要なことだ」と訴える。(鴻池尚)

(2015年10月28日朝刊掲載)

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