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社説・コラム

社説 米乱射事件 テロの防止に銃規制を

 米カリフォルニア州の福祉施設で起きた銃乱射事件について、米連邦捜査局(FBI)はテロ事件と断定した。罪のない14人の命が奪われたことに、あらためて憤りを覚える。

 パリで銃乱射による同時テロが起きた後である。FBIが過激派組織「イスラム国」の関与を念頭に、初動捜査を進めたのも無理からぬところだろう。

 警官に射殺された容疑者夫婦はイスラム教に傾倒し、過激思想との関連も報じられている。外国のテロ組織に感化されたとFBIはみているようだ。

 一方で、特定の組織から具体的な犯行指示があったとは考えにくいとも言い添えている。本当の犯行理由や背景の解明は、捜査の進展を待つしかない。

 冷静に受け止める必要があろう。オバマ大統領があえて「断定する前に事実をしっかり集める必要がある」と訴えるのは、米国内で暮らすイスラム教徒への偏見が広がる懸念からであろう。14年前の米中枢同時テロの影響は、今も米社会に残る。

 今後、抑圧がさらに強まれば中東出身者やイスラム教徒が不満を募らせる恐れもある。テロ対策は講じつつ、異文化の理解と調和を進めるしかない。

 加えて米国の銃社会の在り方も問われよう。オバマ氏が今回の事件を受けたメッセージでテロ防止とともに重きを置いた。「米国のように大量射殺事件がパターン化した国は世界中どこにもない」との言葉は重い。

 この半年だけで、米国では銃乱射事件で多くの市民が命を奪われている。日本人の感覚からすれば明らかに異常だ。

 しかし銃規制の必要性が叫ばれてきたにもかかわらず、前に進まないのは高いハードルがあるからだ。合衆国憲法は国民に「武装の権利」を認めている。そもそも自分の身は自分で守るという意識は、遠い開拓時代にさかのぼるという。痛ましい事件が起きるたびに、むしろ自分や家族を守るための銃購入が急増してきたのも現実である。

 こうした傾向は、さらなるテロの温床となりかねない。現に今回の事件で使われた銃器も合法的に入手されたもので、容疑者の自宅から大量の弾薬などが見つかっている。銃犯罪が新たな危険を増大させるという「悪循環」を招かないか心配だ。

 オバマ政権は包括的な銃規制法に強い意欲を示したことがある。3年前の小学校乱射事件を受け、購入者の調査の徹底や殺傷力の高い銃器の販売規制を掲げたものの、保守政治家に強い影響力を及ぼす全米ライフル協会などの反対で断念せざるを得なかった。来年に大統領選を控え、その圧力がさらに強まる可能性もあろう。

 しかし、今こそ考え方を変える時期ではないか。米国など有志国連合による「イスラム国」への空爆強化で自国内のテロの危険が高まるとすれば、そのリスクの根源を絶つための抜本的な銃規制が必要となるはずだ。

 米有力紙ニューヨーク・タイムズは今回の事件を受け、約100年ぶりに1面に社説を置くという。銃規制を強く訴えるためだ。銃による惨事をこれ以上繰り返してはならないという世論を映したものだろう。

 テロという現実を前に、銃社会自体が大きな矛盾を抱えている。もはやテロ対策と銃規制は切り離しては考えられない。

(2015年12月6日朝刊掲載)

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