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社説・コラム

「世界の果て」知って 過酷な戦後描いた中脇さんに聞く 愛された記憶が支えに

 太平洋戦争中に、旧満州(まんしゅう)(中国東北部)で知り合った3人の少女がその後、過酷(かこく)な人生を歩む物語「世界の果てのこどもたち」の著者、中脇初枝さん(41)が広島を訪れたのを機に、平和をテーマに取材・活動する中国新聞ジュニアライターが、作品への思いや未来への願いを聞きました。(中3上長者春一、中2プリマス杏奈)

 ―日本の戦争孤児(こじ)、中国残留孤児、在日朝鮮(ちょうせん)人の少女が生き抜く作品。思いを聞かせてください。
 高知県の四万十川沿いで育った幼いころ、近所に在日朝鮮人の優しいおばあさんがいた。なぜ彼女が長い人生の最後を朝鮮でなく、高知の山奥で過ごすのか疑問に思った。理由は聴(き)けずじまいだったが、いつか小説家になって、彼女のことを書きたいと思った。

 同じ川沿いで戦時中、満州に分村した地域があると高校卒業時に初めて知った。他の人にも伝えようと満州を舞台(ぶたい)に朝鮮、中国、日本の話を書こうと決めた。小さい時から近所の人からいろんな話を聞くのが好きだったので、歴史の大きな流れではなく、人々の営みといった小さな物語に着目しようと思った。戦後70年に合わせ完成させた。

 ―戦争の極限状態で現れる人間の本質を表現しています。人の悲しい本性は、人の優しさで補えますか。
 人は、幸せな思い出があると悲しさを乗り越え、心の傷を「かさぶた」にすることができる。悲しみを背負った人が望むのは、謝ってもらうことでなく、何があり、何をされたかを周囲に知ってもらうこと。認めてもらうことで救われる。

 事実を多くの人に知ってもらいたい。この本を、中国や韓国などあらゆる世界の人に読んでほしい。そのため、隣(とな)り合う国に住む3人の物語として表現、祖国を美化せず、戦争でやったこと、やられたことの両方を書くよう気を付けた。

 ―子どもの視点から描くのは、なぜですか。
 子どもの思いを知ってほしいから。大人の視点で見た世界は、子どもの素直な視点から見ると、不合理なこともある。周囲の人に気付かれず、救われない過酷な状況にいる人は「世界の果て」にいるようなもの。70年前、そんな果てが至る所にあった。3人の育った環境(かんきょう)がそうだった。

 ―戦争をなくすため、私たちがすべきことは。
 世界中の子どもに、幸せな子ども時代を送ってもらいたい。まず、自分を好きになってほしい。自分を好きになれば、自分を大切にし、他人を大切にできる。逆に自分を好きでないと、人を愛せず許せなくなる。

 ただ、自分を愛すことは一人ではできない。子どものころに親や大人に褒(ほ)められた記憶はずっと残り、つらい時に乗り越える材料になる。人から愛された思い出が、自分を愛すことにつながる。今後「世界の果て」をつくらないよう、身近にいる家族や友だちを大事にしてほしい。

なかわき・はつえ
 徳島県生まれ、3歳から高知県中村市(現四万十市)で育つ。高校生だった17歳の時、小説「魚のように」で坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大卒業後の2012年、虐待の切実さを伝える短編集「きみはいい子」で坪田譲治文学賞を受賞。

(2015年12月7日朝刊掲載)

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