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社説・コラム

天風録 「あんぽ柿」

 だいだい色がともしびのように見える。福島名物の干した「あんぽ柿」である。原発事故による出荷停止を乗り越え、店頭に並ぶ。被災地に足を運んで土産に求めた▲どこにでもある冬の味と思いきや、ひと味違う。表面は大福のように柔らかく、中はとろり。色も鮮やかだ。干す前に硫黄でいぶすのが秘訣(ひけつ)で、大正時代に外国の干しぶどうからヒントを得て、全国に名を広めてきた▲福島県北の生産者の顔が思い浮かぶ。原発事故から間もなく、取材で知り合った頃には打ちひしがれていた。それでも気持ちを折らずに再出荷にこぎつける。袋には線量検査の結果が分かるQRコードを貼る気遣いも▲今なお様子が異なるのは、あの飯舘村である。人影の消えたままの山里に、もがれることのない柿が並んでいた。原発事故から5年が近づくのに、全村避難が続く。除染土を詰めた袋の黒とのコントラストに胸が痛む▲のどかな村の象徴だった大家族は散り散りになった。<祖父(おおじ)親孫の栄えや柿蜜柑(みかん)>。ある芭蕉の句を思う。たわわな実りに家族の栄えをなぞらえたのだろう。福島は「奥の細道」のゆかりの地の一つ。今の被災地に希望を与える句を俳聖ならどう詠むか。

(2015年12月17日朝刊掲載)

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