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回顧やまぐち2015 上関原発 対立避け町長選無投票 過疎深刻 町づくり連携

 山口県道光上関線が海岸を伝う室津半島。強風にあおられた周防灘の白波が、至る所で車道にしぶく。上関町は師走に入ると、海が荒れる。春を迎えるまでの間、離島の祝島、八島を結ぶ定期船2航路は、欠航を幾度も迫られる。

 同町での上関原発建設計画は、この冬景色とは対照的な静けさを保つ。準備工事は2011年3月の福島第1原発事故直後から中断。凍結状態が続き、再開のめどは立っていない。

82年以降初めて

 9月の町長選。地元の反対派3団体が候補者の擁立を断念した。その結果、上関原発への対応を「国策であり見守るしかない」と主張し、推進派の支援を受けた現職の柏原重海町長(66)が4選を無投票で決めた。1982年の計画浮上以降、10回を数えた町長選で初の事態だった。

 「原発計画は動いていない。まちづくりで協力する必要性を優先した判断だった」。擁立を見送った上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(60)は振り返る。

 1日時点の高齢化率は53・98%。人口は3062人で、この1年間に131人減った。2016年中にも3千人を割るペースだ。両派が対立を続けた町は凍結状態が長期化する中、深刻な過疎高齢化に直面している。

 清水代表と、島民の会前代表の山戸貞夫氏(65)はいずれも町議。反対派町議は歴代、議場で上関原発に対する町の見解を欠かさずただしてきた。だが2人は昨年9月を最後に、一般質問で上関原発を取り上げていない。

 問うのは医療や子育て環境の改善など、暮らしに密着した課題。柏原町長との対立を極力避け、連携を探る。原発財源に依存しない今の町政を定着させたい思いがある。

風力発電に期待

 推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(57)は、現状を克服する手だてとして「原子力発電所が必要」と譲らない。一方で「将来を憂う気持ちは同じ。原子力とは別に、まちづくりで協力するための対話の場を持てたら」との気持ちを明かす。

 町議会は11月、柏原町長が強い意欲を示す風力発電機建設計画の関連経費を盛り込んだ15年度一般会計補正予算案を賛成多数で可決した。売電による自主財源の確保を目的に、町は来月にも各種調査を始める。

 設備投資だけで20億円を見込む。この一大事業に推進、反対両派が理解を示す。室津半島の先端に位置する同町。町の担当者は「風況は良い。採算性は十分」と期待する。

 計画では19年度に売電を開始。高齢化が進む町で、住民サービスの充実に充てる予定だ。対立を乗り越えて国策に依存しないまちづくりを進める一歩となるか―。事業のその先に、注目が集まる。(井上龍太郎)

上関原発をめぐる動き
 中国電力が上関町に計画する改良沸騰水型軽水炉。1、2号機の出力は各137万3千キロワットで、埋め立て海域は約14万平方メートルある。国内では九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)が8月に再稼働。上関町八島の一部が半径30キロ圏に入る四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)は来春以降の再稼働が見込まれる。政府は一方で、上関原発を含む新増設を「考えていない」(林幹雄経済産業相)としている。山口県は6月、建設予定地の公有水面埋め立て免許延長について、回答期限を1年後とする7度目の補足説明を中電に求め、可否判断を先送りした。

(2015年12月22日朝刊掲載)

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