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社説・コラム

社説 沖縄県「辺野古」提訴 いったん工事を止めよ

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、政府と沖縄県が互いに裁判に訴える。異例の事態に発展したことが、残念でならない。

 県はきのう、石井啓一国土交通相が県の埋め立て承認取り消しの効力を停止したのは違法だとして那覇地裁に提訴した。国は先月、承認取り消しを撤回するよう求める「代執行訴訟」を起こしている。

 翁長雄志(おなが・たけし)知事の新たな決断には県議会も賛成多数でゴーサインを出している。知事は記者会見で「県民の誇りと尊厳を守る意味からするとやむを得ないものだ」と語り、国の一連の対応について「沖縄県の自治権を侵害するものだ」と訴えた。

 知事は代執行訴訟の意見陳述でも「日本に本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか」と問い掛けている。その点は十分にうなずける。何を言っても聞く耳を持たない国へのいらだちも伝わってくる。

 国内の7割以上の米軍専用施設が沖縄に押し付けられている上に、数々の選挙で示された民意が軽んじられていることへの怒りも募っているはずだ。

 だが国の側はどこ吹く風である。市街地の真ん中にある普天間飛行場は「世界一危険」だから辺野古への移設を急ぎたいと繰り返す。法的に見れば国に有利と踏んでいるようだ。

 それでも民意に対する危機感はあるのだろう。その普天間を抱える宜野湾市の市長選が1月に迫るが、早期閉鎖を訴える現職を官邸が支援している。一方で翁長知事は辺野古移設に反対する新人を応援する。

 気になるのは、政府のなりふり構わぬてこ入れ策だ。

 翁長知事との対立で減額を検討していた沖縄振興予算を本年度より微増としたのは明らかに政治的な配慮だろう。普天間返還後の振興策としてディズニーリゾートの沖縄への誘致の後押しも公言している。本来は沖縄振興策と基地負担は分けて考えるべき話ではないのか。

 辺野古をめぐる1年の動きを思い返したい。国は「辺野古が唯一の選択肢」と一歩も譲らずに知事の反対にもかかわらず海底ボーリング調査を続行し、知事との協議も平行線に終わった。10月に埋め立て承認が取り消されても、全く意に介さず本体工事に着手した。

 国民である沖縄県民の抗議に見向きもせず、米国との同盟関係の維持強化ばかり優先する安倍政権の方針は理解に苦しむ。

 こうした米国の顔色をうかがう姿勢は、外務省が公開したばかりの外交文書からも、くっきりと浮かび上がる。

 1971年の沖縄返還協定調印の約1年前から、軍用地の所有者への債務を日本政府が肩代わりする方策を検討していたという。本来なら米国が負担すべきものを安易に引き受けてしまったことになる。後の沖縄密約につながる内容であり、基地の過大な負担を強いてきた背景にもなっていよう。

 こうした経緯を考えても、政府には沖縄の民意を最大限尊重する責務があるはずだ。

 もう一度、沖縄の声に耳を傾け議論を尽くすべきだ。今回、県は提訴と併せ、判決が出るまで工事を一時中断させるよう那覇地裁に申し立てた。司法判断の行方はともかく、それだけは認めるべきではないか。

(2015年12月26日朝刊掲載)

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