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一つではない「ヒロシマ」 被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島 加害性や少数者の視点提起

 「被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島」が19、20の両日、広島市で開かれた。国内外から約220人が参加。原爆が投下されてから70年がたち、ステレオタイプに語られがちな「ヒロシマ」を、多様な切り口から再考する好機となった。

 広島市立大教授のウルリケ・ヴェールさんと、ひろしま女性学研究所主宰の高雄きくえさんの2人が代表を務める市民有志の実行委員会が企画。「被爆の記憶は、無罪無垢の女性被害者像として描かれ、『女性化』『母性化』される傾向にないか」「そのために、戦争の加害の側面やマイノリティーの存在などが見えなくなっているのでは」―。そんな問題意識を出発点に、約2年かけて準備してきた。

性差で分業 指摘

 2日間で、研究者や市民たち23人が登壇。被爆の記憶が、メディアや芸術、地域の中でどう表現され、受容されてきたか▽在日韓国・朝鮮人被爆者、性的マイノリティー、沖縄や福島が抱える問題に、被爆地はどう向き合ってきたか▽原爆についての捉え方が異なる米国や東アジアとの関係の中で「ヒロシマ」をどう位置づけるか―など多角的な提起が続いた。

 「フェミニズムと民族・国家・戦争―ヒロシマという視座の可能性」と題したセッションでは、女性史研究者で被爆者でもある加納実紀代さんが講演。ケロイドや白血病を負った若い女性を原爆被害者の象徴として取り上げてきた報道やポップカルチャーを分析した。また高度経済成長期には、男性は産業発展のために原子力を推進し、女性は「命を守る母」として原水禁運動を担うジェンダー分業が生じた点を指摘した。

 著書「広島 記憶のポリティクス」で歴史の連続性や被害の女性化などを論じた、トロント大教授の米山リサさんは「広島自体が、戦前は軍都であり、戦後は米国が作ったレジーム(枠組み)の優等生でもあった」などと説明。単一軸ではなくジェンダー視点を含めた「輻輳(ふくそう)的」な物の見方を求めた。

 女性の参政権獲得に尽くした市川房枝の言葉を引きながら、「変えようとすれば変えられた権利を(私たちは)行使しなかったのではないか」と問い掛けたのは、社会学者の上野千鶴子さん。それぞれの経験や歴史の多様性に目を向けながら、当事者意識を持つ重要性を訴えた。

物事の本質学ぶ

 会場からの発言も熱を帯びた。福島から避難している30代女性は「避難者」としてひとくくりにされる違和感を吐露。「同じように避難していてもみんな生活スタイルも考え方も違う。子を守る母親のイメージを演じなくてはならなかったり、私たちにはまだまだ続いている問題なのに、『3・11』という点として片付けられたりする」。80代の被爆者女性は、修学旅行で広島を訪れる学校から、証言の際に政治的な話をしないよう求められることに触れ「権力によって過去の記憶が書き換えられていくおそれを感じる」と話した。20代の男子大学生は「ジェンダーを知ることは物事の本質を学ぶことだと分かった。若い世代が話せる場をつくりたい」と述べた。

 フォーラムの合言葉「思考する広島へ」。それに向けた一歩となった。(森田裕美)

(2015年12月26日朝刊掲載)

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