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社説・コラム

天風録 「桃栗3年」

 この時季に思い浮かぶ音楽といえば、ベートーベンの「第9」だろう。演奏会で、一心不乱に棒を振る指揮者の姿に引きつけられたことがある。一生に一度でいいから自分も…といまだに憧れる▲そんな素人考えでは及びもつかない激務らしい。まばたきより短い演奏のずれも聞き分け、指示を出す。タクトを振る回数が何と2万回以上に及ぶ日さえあるという。首や腰の辺りにガタのくる指揮者も珍しくはない▲政治と経済を指揮して丸3年を迎えた安倍晋三首相も、重圧は相当なものだろう。感想を問われ、「桃栗3年、柿8年」と答えた。丸8年の節目は東京五輪の年。まさか、それまで指揮台に?と臆測を呼んでいる▲出だしとなった金融緩和のタクトは、懸案の円高を転調させた。株価はテンポよく上向き、就任前の8割増しに。片や、物価高は家計にずしりと響く。いまも暮らしは優雅な旋律からは程遠いことを忘れてほしくない▲「第9」のフィナーレには、シンバルや大太鼓などが打ち鳴らされる。アベノミクスはさて終演に近づいているだろうか。景気回復の大合唱の後、残るのが借金の山では困る。後は野となれ、ならアンコールはかかるはずもない。

(2015年12月27日朝刊掲載)

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