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原爆写真 一部でネガ劣化 専門家「保存対策を」

 写真フィルムが長い年月の間に化学変化を起こし、溶けるなどして画像が失われる「ビネガーシンドローム(加水分解による劣化)」が、広島市中区の原爆資料館に保管されている写真の一部でも起きていることが分かった。被爆後や復興期の写真を次代に継承できなくなる恐れもあり、専門家は「長期保存への多角的な取り組みが必要」と指摘している。(守田靖)

 同資料館によると、ビネガーシンドロームが見つかったのは、原爆の惨禍とまちの復興を記録した佐々木雄一郎さん(1917~80年)のフィルム。

 約6万こまのうち、主に46年と、48~49年の一部の計数百こまについて、フィルム同士が溶けて固まったり、波打つなどし、プリントできない状態になっている。「靴磨きの兄弟」(48年)の名で知られる写真も、フィルムが失われた可能性があるとしている。

 写真保存の専門家で日本写真家協会の松本徳彦専務理事が同館で確認した。「資料館の温度、湿度などの保管方法に問題はない。避けられない化学変化が進行している」と指摘。「劣化が進んだフィルムを別の容器で保管したり、健康なフィルムは早めに紙焼きしておくことが最善。画像の長期保存に向け、多角的な対策を進めてほしい」と言う。

 同館学芸担当の大瀬戸正司主任は「遺族が大事にしてきたフィルム。専門家の指導の下、紙焼きなども検討材料の一つとし、適切に保管管理をしていきたい」としている。

 ビネガーシンドロームは、主に50年代までに製造されたフィルムで起きやすいという。松本さんは「日本の写真家の間でその危険性が話題になり始めたのもわずか10年程前から。国レベルでの研究、対策が始まったが、写真資料を保管する各地の公文書館や図書館などでも現象の有無を確認し、適切な管理を進めてほしい」と話している。

ビネガーシンドローム
 1930年代から50年代に使われた酢酸セルロースフィルムで起きやすい。高温多湿の環境でフィルムが縮んで波打ち、ワカメ状に変形したり、溶けたりする。強い酢酸臭が特徴。乾燥した通気性のある場所で温度20度、湿度50%以下での保管が有効とされる。

(2012年1月12日朝刊掲載)

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