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「黒い雨」報告書を提出 厚労省WG 「地域の確定困難」

 広島原爆投下後に降った「黒い雨」に伴い国の健康診断特例区域に指定される地域の見直しで、厚生労働省の有識者検討会のワーキンググループ(WG)は20日、省内での第6回検討会で「降雨域を確定するのは困難」と報告した。(岡田浩平、金崎由美)

 WGは指定地域の約6倍の降雨域を推定した広島市の調査データを再解析。原爆投下時と同じ場所にとどまり雨を浴びたと回答した住民の割合を「体験率」と設定した。

 その結果、指定地域である「大雨地域」外側で体験率50%以上かつ回答者10人以上の地域が北西側に旧筒賀、旧砂谷村など6カ所あった。うち5カ所はさらに広い「小雨地域」の外側にかかる点を「重要」とする一部委員の指摘もあった。

 半面、データ数が少なく、住民の記憶に基づく市の報告を「正確性を十分明らかにできない」などと説明。「今回の調査データから黒い雨の降雨域を確定するのは困難」との統一見解に至った。

 一方、健康影響は精神面を中心に解析。黒い雨を浴びた人の状態は浴びていない人に比べ悪く「放射線の健康影響への不安や心配」と理由付けた。

 報告とは別に、放射線影響研究所(広島市南区)の大久保利晃理事長が参考人で出席。1950~60年代の被爆者調査で1万3千人が「(黒い)雨に遭った」と答えたデータと分布図を説明した。

 検討会は、本年度中に見直し方向の結論を出す。


市の報告 追認せず 住民体験と大きなずれ

 広島原爆の「黒い雨」の降雨域を検証した厚生労働省の検討会WGは20日の報告で、国が援護対象の指定地域を決める基準とする降雨域(大雨、小雨両地域)の外側で雨が降った可能性に触れた。ただ、指定地域の約6倍を推定した広島市の報告を追認せず、拡大を求める住民たちは不満を募らせた。

 WGは指定地域外の北西側に「黒い雨体験率」50%超の地域を6カ所認めた。にもかかわらず指定地域外の「一部」などとして「降雨域の確定は困難」とした。国の降雨域設定に疑問を投げ掛ける意味を持つ、小雨地域外での降雨の可能性に言及した記述も、19日夜まで続いたとりまとめの最終段階で、広島大の大滝慈教授が指摘し、ようやく加えられた。

 体験率50%未満ながら70人が「降った」と答えた地域についても、報告書は触れていない。広島市の漆原正浩調査課長は「市の結果と全く同じではないが否定するものでもない。解析の手法が違えば結果は異なる」と冷静に受け止めた。

 しかし、長年、地域拡大を求めてきた住民団体からは「未確定」の結論に批判の声が相次ぐ。広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(73)は「精神的な影響に限って認めようとする内容。国の責任でさらに調査するべきだ」と批判。黒い雨の検討会終了後に同省で、市が示した降雨域を指定地域とするよう小宮山洋子厚労相宛てに申し入れた。

 安佐南区の上安・相田地区黒い雨の会の清木紀雄会長(71)は「66年前の実体験と大きなずれを感じる。地域拡大の訴えはこれからが正念場だ」と自らを奮い立たせた。(岡田浩平、金崎由美)

(2012年1月21日朝刊掲載)

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