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米海兵隊岩国移転打診 山口知事ら「拒否を」 「愛宕山」凍結も示唆

 米政府が日本政府に米海兵隊岩国基地(岩国市)へ在沖縄米海兵隊のうち約1500人を移転するよう打診した問題で、山口県の二井関成知事と岩国市の福田良彦市長は7日、ともに強い不信感をあらわにした。二井知事は移転協議が日米間で進むならば、県、市で決めた愛宕山地域開発事業跡地(同)の国への売却方針を凍結する考えを示唆した。

 二井知事は県庁で取材に応じ「唐突に岩国が出てくることは、大変心外。打診を受けた(日本)政府の対応に掛かっているので拒否してもらいたい」と述べた。福田市長も市役所で「こういう話が出ること自体、不信感を持っている」とした。

 岩国基地には在日米軍再編で、米軍普天間飛行場(沖縄県)から空中給油機12機、米海軍厚木基地(神奈川県)から艦載機59機がそれぞれ移転される見通し。今回の海兵隊1500人の移転はさらに負担が「上乗せ」される形で、二井知事、福田市長がともに主張する「これ以上の負担増は認められない」という基本スタンスにも反する。

 二井知事はこの基本スタンスが「日米両政府に徹底されていない表れ」と厳しく指摘。防衛省から7日朝に「そういう(打診の)事実はないし、あり得ない」との回答を得たというが、不信感は拭えず、今後も事実確認をしていく構えだ。

 また、今月中にも国と結ばれる見通しだった、国が米軍住宅の建設を予定する愛宕山の売買契約についても、二井知事は「(1500人の移転が)事実となれば、売却は当面しないという考え方もできる」と述べ、契約見直しの可能性にも言及した。(金刺大五、堀晋也)


沖縄海兵隊岩国移転案 進む開発が呼び水に

 在沖縄海兵隊のうち約1500人の移転先として米海兵隊岩国基地(岩国市)が突然、浮上した。在日米軍再編計画に加え、今回の移転が実施された場合、基地の人員は現在の約2.3倍の約1万3600人に膨れ上がる。滑走路の沖合移設以降、受け皿として開発の進んだ現実が背景にあるとの見方も出ている。(編集委員・山本浩司、酒井亨)

 各種データから推計すると、岩国基地の現在の軍人・軍属と家族は計約6千人。米軍再編後は約1.6倍の約9700人になる。今回浮上した沖縄の海兵隊員約1500人とその家族が加わると約1万3600人となり、嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の約1万8千人と肩を並べる。

 現在、岩国基地に配備されている航空機はFA18戦闘攻撃機など固定翼機35機。これに2014年までに米海軍厚木基地(神奈川県)から移転する空母艦載機59機と、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から移転する空中給油機12機が加わると配備機数は約3倍の106機になる。嘉手納基地の100機を超え、極東最大の航空基地になる。

 岩国基地では11年3月に滑走路沖合移設事業が完了。基地面積は約1.4倍の約787ヘクタールに拡大した。政府は12年度予算案で艦載機移転事業に約304億円を計上。基地内に格納庫や駐機場の新設などを進める。

 基地監視団体リムピース共同代表の田村順玄市議は「滑走路の沖合移設で基地が大幅に拡大し、受け皿になっている」と指摘。「さらに基地機能が強化される可能性がある」と懸念する。

 米軍再編への協力姿勢の見返りに地域振興策などを国から引き出してきた山口県と市。「これ以上の負担増は受け入れられない」との姿勢を貫き、国には米政府に対する決然たる態度を求めるべきだ。


<米海兵隊岩国基地の航空機配備機数と人員の変化>(人員は一部推計を含む)
            配備機数(機)  軍人・軍属(人)  家族(人)
現在           35        3300       2700
空母艦載機移転    59        2100       1700
空中給油機移転    12          340        360
沖縄海兵隊移転    -         1500        1600
計            106        7240       6360


強く反発/当面静観 山口選出国会議員

 米政府が在沖縄海兵隊の一部を岩国基地に移転させる案を日本政府に打診したことについて山口県選出の国会議員からは7日、反対、懸念の声が出る一方、現時点では静観すべきだとの意見もあった。

 2006年の日米合意で、米軍厚木基地の空母艦載機部隊の移転先となっている岩国基地。民主党の平岡秀夫前法相(山口2区)は「さらに沖縄の海兵隊を受け入れるとなると、負担が大き過ぎる。地元にきちんとした説明がないままに決まってはならない」と強調した。

 同党県連副代表の高邑勉氏(比例中国)は協議の議題になっていないことを防衛省などで確認したが「米国が移転先として岩国を挙げてきてもおかしくはない」と分析。「仮に米国から正式の要請を受け、日本としてもそうせざるを得ない状況となれば、地元への配慮を前提に国益を第一に考えて協力することも必要ではないか」とも述べた。

 自民党では、岸信夫元防衛政務官(参院山口)が「岩国はできることには協力しようとある程度の負担を受け入れてきたが、もうリミットが近い。こういう話が出ること自体が問題」と指摘。「米側が正式な協議に乗せようとしたら、政府には即座に断ってもらわないと困る」と求めた。

 林芳正元防衛相(同)は、野田佳彦首相が協議の事実を否定した点を挙げ「今の段階でコメントすべきではない」と述べた。(荒木紀貴、武河隆司、岡田浩平)

(2012年2月8日朝刊掲載)

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