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ベルリンの記憶 時空巡る ヒロシマ撮り続ける土田ヒロミさん 写真集

 広島の被爆建物などを10~20年間隔で撮り続ける東京の写真家土田ヒロミさん(72)が、かつて東西に分断する壁があったベルリンを追った写真集「BERLIN」を刊行した。「20世紀の破壊を象徴するヒロシマを撮ったことの必然のように、東西冷戦を象徴するベルリンに関心を持った」と土田さん。写真集には過去と現在のベルリンが混在し、時間や歴史、記憶を巡る深い思いに誘われる。(守田靖)

 壁が崩壊した1989年を挟み、四半世紀にわたって6回滞在した中から94枚を選んだ。時間を置いて同じ場所を撮る定点撮影を駆使する土田さん。写真からは、消えたベルリン、変わらないベルリンが浮かび上がる。

 壁崩壊前の83年に撮ったモノクロ写真。落書きされた壁越しに東ベルリンのシンボルだったテレビ塔がはるか遠くに見える。市内に存在する国境。「壁はどこまであるのか」と好奇心のまま歩き回ったという。

 東西融合後の99年、同じような場所から撮ったテレビ塔の風景は、拍子抜けするほど明るい。別カットの、やや色彩が誇張されたような繁華街のにぎわいもどこにでもある都市の風景だ。

 だが、写真集にはもうひとつの街の顔が登場する。市内の公園には、ナチスドイツによるユダヤ人処刑シーンの巨大パネル写真が置かれ、その前でたたずむ市民の姿がある。街のあちこちに壁が切れ切れに残る。2009年の壁崩壊20周年の祭りでは、かつて西側から東側を望んだ物見台が赤い特設台として再現され、旧東ベルリンの方向を望む市民の姿があった。

 「崩壊から10年たっても20年たっても壁が撤去しきれず、工事現場のように生々しく残っていたのが意外だった」と土田さん。一見平穏な日常。でも「ドイツ人はまだ歴史の中での自分たちの位置付けを探しあぐね、いら立っている気がする」と言う。写真集は現地の写真家に好評で、写真展開催の話が進む。「写し出せたのは、そこに流れた時間だけかもしれない。でも、それがかえってドイツの人にリアリティーを持ってもらえた」

 土田さんは広島の被爆建物や樹木を80年前後、90年前後、09年と同じアングルから撮り、写真集などで発表してきた。被爆建物は徐々に消え、新たなビルが立ち並び、原爆ドームが低くなっていく。平穏そうな日常の中で変わりゆくヒロシマ。「ベルリンとヒロシマという20世紀の破壊を象徴する場所で、共通する時代の風景を感じる」

 05年からはイスラエルも撮り続ける。「21世紀になっても破壊や闘争が続く現場だから」。いつかヒロシマ、ベルリン、イスラエルを一つのシリーズとして展示したいと願う。

 「BERLIN」は平凡社刊。A3判変型、132ページ、5040円。写真展を5月に東京、6、7月に大阪のそれぞれニコンサロンで開催する。

(2012年2月8日朝刊掲載)

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