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被爆クスノキ 観音像に 広島の仏師 中西さん準備

 広島市南区の仏師で被爆者の中西平三さん(69)が、被爆したクスノキで観音像を彫る準備をしている。金閣寺や銀閣寺の住職を務める、臨済宗相国寺派の有馬頼底管長(79)の依頼で、京都市内の寺に置かれる予定。広島から平和への祈りが広がるよう願いを込め、8月15日の終戦の日までに制作する。

 クスノキは樹齢約300年とみられ、中西さんの菩提(ぼだい)寺である南区比治山町の長性院に幹の下部が残る。二十数年前に伐採された上部を中西さんが保管しており、その一部を使う。これまでにも被爆クスノキで仁王像などを彫り、長性院に納めた。

 中西さんは1月末、平和活動に取り組む知人を通じ、核兵器廃絶への思いが深い有馬管長と面会。「被爆クスノキで観音像を」と頼まれた。現在、切り出した高さ約1メートルの木片に下絵を描いている。中西さんの兄で彫刻師の隆さん(72)=中区=も装飾を手掛ける。

 「原爆の惨禍を知る樹木。核兵器廃絶を誓いたい」と有馬管長。自身が住職を務める寺に安置し、希望者にお参りしてもらう。

 被爆当時、2歳だった中西さんは母と隆さんに連れられ、平塚町(現中区)の自宅から爆心約1.5キロの長性院境内に逃れた。塩野維久男住職(69)は「京都でヒロシマを再認識してもらい、祈りの場になれば」と語る。

 11日には、クスノキにのみを入れる行事が長性院である。中西さんは「原爆犠牲者の鎮魂と平和への思いを込め、導かれるままに形を彫り出したい」と話している。(野田華奈子)

(2012年2月10日朝刊掲載)

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