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広響コンサート 358回定期演奏会 被災地へ 被爆地の祈り

 東日本大震災から5年目の日に行われた広島交響楽団第358回定期演奏会。バッハの「G線上のアリア」の特別演奏やソリストからのメッセージの掲載で、被災地に思いをはせる。演奏会のテーマは「祈り、不死鳥の如(ごと)く」。被爆地広島を形容してきた言葉でもあり、当地の楽団ゆえの重みもある。

 だが、決して重苦しい会ではなかった。メーンはストラビンスキーのバレエ組曲「火の鳥」。ラトビア生まれの若手指揮者、アンドリス・ポーガは、丁寧な棒さばきながらもめりはりを利かせた小気味よい音楽を作り出す。英雄譚(たん)を思わせるクライマックスでも大仰にならず、華やかな音の響きにすがすがしさを残す。

 また彼は楽章や各部の性格づけをするのがうまい。如実だったのがベートーベンのピアノ協奏曲第4番。空気の上をふわふわと進むような第1楽章から、第2楽章では一転して堅い音のうねりを、第3楽章では躍動感あふれる音楽を瞬時に繰り出してくる。その上で全曲を通じて流れがあるのは、彼の中に確とした全体像があるためだろう。

 一方、フランスのピアニスト、ミシェル・ダルベルトはフレーズや旋律などの小さな単位で音楽をつかんでくる。楽章が変わってもそのスタイルは変わらない。ただし、紡ぎ出されるフレーズは詩情に富み、聴き手を飽きさせることはない。二者の音楽の相違は微妙な緊張感を生み出し、音楽の推進力ともなっていた。

 2曲の間に演奏されたのは、プロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」。第3楽章から終楽章へ移る際に生じた一瞬の間(ま)に象徴されるように、ポーガとオーケストラの呼吸のずれが気になった。とはいえ、先の協奏曲の余韻がいつまでも心に残る一夜となった。(能登原由美・「ヒロシマと音楽」委員会委員長=京都市)

(2016年3月25日朝刊掲載)

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